このドラマには名シーンはいくつもあるのですが、
私がとくに印象に残っているものを紹介します。
シーズン1 第9話 「高度3万フィートの密室殺人」より
事件は飛行機の機内で起こった。
突然乗客が暴れだし、ほかの乗客ともみあいになる。
暴れた乗客は非常口に向かって、ドアを開けようとする。
ドアが開くと飛行機は落下する。
それを防ごうとして他の乗客は暴れた乗客をみんなで
足蹴にして殺してしまう。
正当防衛か否か?
捜査員たちは「殺し」で意見が一致するのだが、
捜査後、あの場に居合わせたら自分はどうするかで議論になる。
A「あんなことをしたのも無理はないと思ってるの?」
B「そこまでは言わないけど、考えてみろよ。もし飛行機が落ちたらって不安は誰でもみんな持ってるだろう」
A「不安があった? だからどうだっていうのは、なんの言い訳にもならないわ。殺したのよ」
B「殺されると思ったからだ」
C「確かに命の危険はあった。被害者が非常口にいて、ドアを開けようとしたときだ。非常口と通路の3mの距離が殺人と正当防衛の差になる」
B「人間とはそんなもんだ。アドレナリンを止めるスイッチはないからな」
A「どんな状況でも、私は殺せない」
B「死ぬか生きるかの境目なら、俺はやる」
A「Cは?」
C「わからない」
A「Dは娘とそこに居合わせたら、どこまでやる?」
D「殺すわ。ためらいもせずに。子供のために命を懸けて戦うでしょう」
B「ほら。この4人の中でさえ、それぞれ意見が違うんだ。みんな思いは様々だっただろう」
A「主任ならどうする?」
主任「答えられないね」
D「意見を言わずに逃げるつもり? 自分がどうするか知られたくないの?」
主任「そうじゃない。みんな意見は分かれているが、視点は同じだ。
乗客の側に立って見ているだけで、被害者の立場に立ってない。そうじゃないか?」
A「わからないわ。どういうこと?」
主任「背もたれを蹴ってるから嫌な奴だと決めつけて、
体の具合が悪いのかと聞いたものは1人もいなかった。
何度も乗務員を呼んでるから、おかしな男だ、トイレがふさがってると
言って大騒ぎをしては、フラフラとツールを行ったり来たりしてるから
危険な人物だと」
D「危険だったわ」
主任「いや、うまく対応すれば危険はないのに、誤った仮定から判断した。
無理もないところもあるかもしれんが、そのせいで死んだ」
B「死なせないために、どうすればよかったんです?」
主任「1人でもいい。冷静に被害者の話を聞いてやって
病気だと気づくものがいたら、死なずに済んだ。
5人がかりで殺したが、助けることは1人でできた」
みんなが危険人物とみなす公共の場で、
体の具合が悪いのかと聞くことはできなくても
「何か事情があるのでは」という視点はもっておきたい。