「教えよう」ではなく 

「世のため、人のため」と思って仕事をする

これは一見、いいことのように思える。

けれども、出版・マスコミの仕事に限っていえば、

なるべくその考えは早めに捨てたほうがいいように思える。

私も長くそういう考えてやってきたが、いつのころからか

「世のため、人のため」と考えなくなってきたように思う。

なぜか。

人の役に立つものにしようと考えると、啓蒙とか教え諭すような

態度になり、悪くすると読者を見下すことになるからだ。

最初は「こういう言い考えがあるから、みんなに広めたい」と

考えるが、「教えてあげたい」になり、「教えたい」になる。

そういう態度でいると、「こういうのに興味を示さないのは

レベルが低い」と感じるようになる人もいる。

売れないのは読者のレベルが低いのであって、

自分が悪いのではないと考える人もいる。

そして、売れている本を評して、「一般人のレベルに合わせた本で

売れたってしょうがない」と負け惜しみをいったりするようになる。

売れているものや、読者というお客さんに対する敬意がなくなって

くるのである。

もちろん、そうでない人もいる。なんにでも例外はある。

「自分がつくったものは世の中の役に立つ」なんていう

傲慢な考えはやめて、自分が知りたいこと、学んだことを書く。

「この本が役に立つ人もいるかもしれんな。

役に立たなくても価格に見合った満足感が得られればいいな」と

思うことにしている。

そこで思うのは、黒澤明氏の次の言葉だ。

「自分から意図してこうしてやろうとか、高飛車につくったら

お客は逃げていっちゃうんだ。大衆に教えてやろうなんて

とんでもないことだ。そうではなく、自分も苦しいんだということを

そのまま吐露すれば、お客はスッと理解する」

私が座右の言葉にしているものである。