「いいです」問答

「大人っていうのは、なんでああいうのをやるのかな」
と子供のころに思ったことを、いまは自分がやっている。
そういうことがいくつかあるが、
「いいです」問答もそのひとつだね。
岡山の両親がつくった本を書店で買って、友達に勧めている。
たぶん、ちょっと安い値段で書いてもらっているのだろう。
「代金はいらないよ」
「そんなこといわないでもらって」
「いいのいいのほんとに」
「だめよ、ほら受け取って」
こういう問答を3ターンぐらい繰り返すのが礼儀だ。
私も最近やった。
お世話になった年下の編集者と一緒に食事をしたとき、
本当にめったにないことなのだが、私のほうがちょっとだけ
たくさん支払いをした。
そのときに、「ここは私が」「いいですいいです」をやった。
こういう「いいです」問答を無駄だという人もいるだろう。
欧米かぶれの人はそういうかもしれない。
でも、これが日本人らしい奥ゆかしさ。
払う気がなくても、「払います」って財布ぐらい取りだしていう。
このシーンでは、みんなが役者にならないといけない。
予定調和におさめるための心地よい演技が必要だ。
こういうのがおもしろいと思えたら、
人間関係はつらくはないだろう。