恩送り

お返しという話で思い出したのは、
映画「ペイフォワード」である。
ある小学生が学校から社会を変えるには何をすればいいか
という宿題を与えられ、誰かから親切を受けたら、
最低3人の人に親切を返していくようにすることを思いつく。
この善意の連鎖が起これば、3の3乗で善意が世界に拡散する
とその小学生は空想したのである。
この映画をつくったアメリカでは、スターバックス
この現象が起きたらしい。
ドライブスルーである客が後ろの車に一杯のコーヒーを
おごったことから善意の連鎖が起こり、
何時間も「ペイフォワード」が続いたのだという。
結果、2日間で750人の人がおごり、おごられた。
スターバックスではその後もたびたび、この善意の連鎖が起こるという。
ペイフォワードとは、映画の中で出てきた概念で、
もともとペイ・バックで仕返し、復習の意味があるのだそう。
それをまるごとひっくり返したのが、ペイフォワード、先送りということだ。
これで思い出したのが、「情けは人のためならず」ということ。
誰かに親切にすることで、未来の自分へ恩を先送りする。
日本にも「恩送り」という、忘れ去られた美しい日本語がある。
親切にしてもらった人に直接恩返しをするのではなく、
後に続く人に自分がしてもらったことと同じことをするということだ。
これがつづくと、善意の連鎖が起こる。
恩のやり取りという当事者だけの関係だけでなく、
社会に広がりが出てくる。
親から虐待されて育った人は、自分が親になっても子どもを虐待するという。
これを負の連鎖というが、そんなことが可能なら正の連鎖も可能だろう。
マンデラはこういう意味のことを言った。
「生まれながらに、怒り、憎しみを持っている人などいない。
教えられて怒り、憎しみをもつようになるのだ。
それならば愛をもつことを教えればいい。
怒りや憎しみが学べるのなら、愛だって学べるはずだ」
つまり、正の連鎖だって可能だろということだ。
以前、とても面倒見のいい人生の先輩にご馳走になり、
お礼を述べたときに、その方はこういってくださった。
「お礼なんかいいから、今度は誰か後輩におごってやってよ」
恩送りを実践していたのだ。
こういうことがさらっとできる粋な大人になりたいね。