こぶしで歩いた男

ボブ・ウィーランドという人のことをたまたま知った。
1946年生まれのアメリカ人だ。
彼は本を出版している。
邦題は『腕で歩く』。
「地雷で下半身を失いながら、こぶしで米大陸を走破した男の物語」
というコピーがついている。
彼は将来メジャーリーグで将来を嘱望された投手で、
実際に米球団と契約を交わそうとしていた。
23歳のとき、ベトナム戦争に衛生兵として派兵され、地雷で両足を失った。
その後、結婚して、ウェートリフティングの選手となった。
36歳のとき、3年8か月をかけてアメリカ大陸を横断した。
その方法が、両腕を地面について歩くというものだった。
当然、歩みは遅い。
夏はコンクリートの照り返しでおそろしく体力を消耗する。
道は必ずしも平坦でないし、
獣の出る砂漠を進まなければならないこともある。
そんな道を4479キロも踏破したのだ。
3年8か月の間、彼は泊めてくれる家を探し、日が沈むと
その家に泊まり、翌日、中断した場所まで車で送ってもらい、
旅を続けた。
一日に進む距離は10キロがやっとだった。
アメリカ大陸を走って横断した人は何人もいるだろうが、
両腕を地面について進んだ人は彼だけだ。
ゴールに選んだワシントンのその場所は、
ベトナム戦争で亡くなった兵士たちの碑の前だった。
「何だってできる。やろうと思うかどうかが問題なんだ!」
と彼はいう。
彼でなければ、陳腐に聞こえる言葉だ。
まったく世界にはすごい人がいたものだ。