『手紙』

ふだんノンフィクションばかり読んでいる私が唯一
といっていいくらい読む小説が、東野圭吾さんの本だ。
その中に『手紙』というのがある。
弟の学費を稼ぎたい兄は、強盗殺人を犯してしまう。
兄は刑務所の中から弟に手紙を送り続けるが、
弟はその手紙の返信をしないまま時が過ぎる。
弟は肉親に殺人犯がいるということで、
社会からさまざまな迫害を受ける。
テレビドラマだと嫌味なおじさんやおばさんが出てきて、
明らかに悪人と分かる体で、差別するのだけど、
東野さんはそのへんを抑えて書いていて、
登場人物が陳腐にならないようにしている。
それでも「こんな差別するやついるかあ」とちらっと
思ったりするのだけど、私が知らないだけで
たぶん、東野さんの見立てのほうが正しい。
この本に出てくるように、あからさまに差別しないのだけど、
裏でこそっと差別する人は多いのだと思う。
意識的にやる人より、無意識でやる人のほうがタチが悪い。
人には自分では意識しようもないところで、
差別する心があるものだ。
受刑者もその家族も事件から目をそらして逃げていてはダメで、
向き合って、赦し、「終わらせる」ことが必要だね。
そんなことを思った一冊でした。