『永遠の0』

『風の中のマリア』がよかったので、今度は同じ著者の
『永遠の0』を手にとってみた。
文庫で600ページ近い分量があるが、スラスラと
大変に読みやすい内容になっている。
戦記ものというのは、それを読みなれている人にはいいが、
読みなれていない人には大変読みにくく苦労する。
しかし、この本はそういうところがまったくない。
主人公のフリーター青年は20代半ばで、30代の姉がいる。
その姉が自分たちの祖父について調べる仕事をもちかけてくる。
祖父というのは、彼らの母親の実の父親で、
特攻で亡くなったという人物だった。
彼らは祖父(宮部久蔵という)を知る戦友たちから話を聞いてまわるが、
その評判は芳しいものではなかった。
自分の命を惜しむ臆病者だったというのだ。
それにパラシュートで脱出した敵兵を撃ち殺すという、
非道な一面も持っていた。
ところが、どんどん話を聞くにつれ、その評判が変わってくる。


時間軸に沿って戦友の話が聞けているところや、80代の人たちにしては
饒舌すぎるような引っかかる点はあるが、戦記ものの初心者たちに
親切な書き方をしてくれている。
その宮部という人物評を端的に表す箇所がある。
敵機からパラシュートで脱出した敵兵を撃ち落とした件について。
「あの男を生かして帰せば、後に日本人が何人か死ぬかもしれない。
そのうちの1人は俺かもしれない」
そして、なぜ命を大事にしなければならないかについては
死んでしまっては敵兵を殺すことはできない。
しかし、生きていればそれからも敵兵を殺すことができる。
飛行機を撃ち落として奴らはすぐにいくらでもつくる。
殺さなければいけないのは、飛行機に乗る敵兵だ、というのである。
まったくもって合理的な考え方だ。
戦争とはどういうものかということが、宮部の死の謎を解くという
ミステリー調に味付けされた本書の中で浮き彫りになっている。
一読するうち、短時間では自分の中で処理しきれないものが積み上がっていった。
長い間かけて考えをまとめようと思う。
戦争ものをなんとなく拒否していた人に、
ぜひ読んでもらいたい一冊です。