『風の中のマリア』

ひょんなことで、あるお方からお借りして読んでみた。
この本は、オオスズメバチを擬人化してその生涯を描く、
いってみれば「生態小説」でした。
これまで読んだことのないものでした。
オオスズメバチのワーカー(働き蜂)であるマリアが主人公となって、
帝国(巣)を守ろうと敵と戦う。
そのなかで、自分は戦って幼虫のエサを
獲得するためだけに生きて死ぬ運命にあることに気付く。
すべてはゲノム(遺伝子)のなせる技であることを悟ります。
運命に従って生きるというのが、この本のテーマかな。
蜂が主人公になると童話っぽくなりがちだと思うが、
簡潔でムダのない文体で、どんどん読み進められる。
それでいて、「オオスズメバチって、こういう生き方なんだあ」と
勉強にもなります。
人間だと生々しくなりがちな殺戮シーンも、オオスズメバチの仕業と
思えばさらっと読むことができる。
マリアと出会った虫たちは、昆虫という生き方について説明してくれる。
安全な場所で長く過ごして、生殖のためだけに一瞬危険な外に出て、
オスとメスが出会って、産卵したら死ぬ。
それはすべて自分の遺伝子を残すためにあらかじめプログラムされた
行動であって、そういう生き方を他の生物の視点から見て
かわいそうだとか、むなしいということはできないのだと。
生物の生きる目的は自分の遺伝子を引き継いでいくこと以外にない。
そのことを冷静な筆致でとらえていて、
人間的な感情を織り込んでいないのに、
生きるということがどんなにすばらしいことか
ひしひしと伝わってくるのです。
人気作家の作品には本当に感嘆させられることが多いのですが、
この本もそんな一冊でした。
ぜひお勧めしたい一冊ですね。