『深い河』

遠藤周作氏の本を初めて読んだ。
これも昔、友人に借りたもので、読まずに返しそびれたもの。
インド旅行のツアーに集まった面々が、
ある者は亡くした者の面影を探し、ある者は愛するものを見い出しに、
ある者は過去を払拭するために、もがく物語。
全体を通して、暗く、切なく、やりきれない感が漂う。
インドを舞台にして、死、愛、宗教などのテーマを扱う。
インドという生と死がむき出して隣り合う舞台装置を最大限に生かし、
これらのテーマを重層的に折り込んでいる。
出てくる登場人物たちは、みなどこか暗部をひきずっている。
その暗部がインドという背景によって露呈される。
彼らの暗部は物語が進んでも決して解消されない。
それどころかどんどん深みにはまっていってしまう。
そうして行き着くところは、現実を受け入れることでしかない。
ただ、その現実を受け入れるためには、もがくしかない。
現実と向き合い、せいぜいもがくこと。
彼らにとってもがく場所がインドだった。
これを読んでインドに行きたくなるかというと、「否」である。
氏のほかの作品をというよりは、
10年経ったらまた読み返してみたい作品だった。