本の本質

目下の最大の関心事であるipadの話をすると、
デジタル関係に強い人しかあまり興味はないようで、
一般にまでその関心の裾野は広がっていないように感じる。
出版関係者も意外と興味は薄い。
紙の本に思い入れがあるからだろう。
電子書籍の話をすると、「出版業界にいるのに紙の本に愛着はないのか」と
問われるが、もちろん、ないわけはない。
自分が手掛けた本が、本という具体物になって目の前に現れたときは
毎回なんともいえない充実感がある。
けれど、それと電子書籍とはまったく別の話。
電子書籍市場が興隆することで困るのは、
印刷、製本、問屋、流通、書店の人たちで、
私のようなライターや編集者にとってはチャンスである。
本の本質は、何の再生機器も電気も必要なく読めることを除けば、
中に書いてあること自体に意味がある。
何が書いてあるのかが大切なのだ。
そして、主義主張や事実を読み手に伝えることが、本の本質である。
とすれば、電子書籍になってもこの本質は損なわれない。
もっといえば、本は人が幸せになるためのものだとも思っている。
人が幸せになるためには、本そのものに触れる機会が増えたほうがいい。
そういう意味で、電子書籍市場が発展すればいいと思っている。
その中で、印刷、製本、問屋、流通、書店には今後、新しい役割が
生まれてくることになろう。
もちろん、ライターや編集者にも
新たなしかけ、新たなしくみ、新たな発想が
求められることになる。
本当の意味で知恵を振り絞るときがきた、と思っている。