どうなる?! 電子書籍市場 その②

電子書籍について、前回述べた構図のなかで儲かるのは、
キンドルをつくっているメーカー、それを売っているアマゾン、出版社、
著者である。しかし、出版事業はそれだけでまわっているのではない。
印刷、流通がある。
印刷には印刷会社だけでなく、製紙、問屋、印刷機械メーカーなどが
含まれる。流通には書店、取次と呼ばれる問屋、運輸会社などが含まれる。
これらの人たちは電子書籍の市場では蚊帳の外にいるように見える。
電子書籍は、作り手(著者、出版社など)が、販売プラットフォーム
(アマゾンなどのECサイト)を通じて、直接読者に届ける仕組みだ。
だから、印刷・流通をすっとばして安価に本を届けられる。
ところが、問題は取次との関係が強い大手出版社がどう決断するか
という点と、電子書籍の出版権は誰が持つのかという点にある。
後者については、デジタル書籍の出版権はいまのところどうも著者がもつ
ということになっているらしい。
そうなるとアマゾンが個別の著者と契約することができ、
出版社は身動きが取れなくなってしまう。
これについては大手出版21社でつくる「日本電子書籍出版社協会」が
経産省などにはたらきかけてルールづくりを行なうとしている。
当たり前である。
これを許してしまったら出版社は潰れるだろう。
出版社が潰れたら誰が編集をするのか。
本というのは著者と編集者の共同作業でできるものなのだ。
ごく一握りの有名作家だけが好きなように執筆できるのであり、
多くの作家は編集者と一緒につくる。
なのに二次使用は著者だけが権利を持つのはフェアではない。
ただし、アマゾンも何万といる著者と個別に交渉するのは現実的でなく、そもそも品揃えを増やさなければ市場を開拓できないため、
出版社と契約しようと考えると思う。
出版社が著者と書籍をつくるとき、電子書籍での出版について印税など
について事前に契約を交わしておけば問題は解消する。
やはり出版社と著者が双方で権利を持つのがいいと思う。
ただ、出版社にとって心配な話題もある。
キンドル向けの「書籍開発キット」が販売されるというウワサが
あるからだ。こうしたソフトウェアが安価に買えるのであれば、
素人が電子書籍をつくることができてしまう。
そうなると著者は出版社を通さず、フリーの編集者と組んで、
電子書籍をつくることができるようになる。
たぶん出版社はこのことを懸念している。
米国では素人でも電子書籍を販売できるサイト「スクリブド」があり、
かなり売上げを伸ばしているという。
アマゾンは(あるいはグーグル、もしかしたらアップル)は
「スクリブド」を買収して、電子書籍市場全体を掌握しようと
試みるかもしれない。
残された課題としては、コピー問題がある。
キンドルに落とした書籍はパソコンにコピーすることができないが、
デジタルはすべてコピーガードが破られることは歴史が証明している
ため、ファイル交換ソフトを通して電子書籍が無限に増殖する
可能性が高い。そうなった時点で著者は別のビジネスモデルを
模索する必要が出てくる(ここで「フリー」との競争が起こる)。
こうした世界の果てに起こるのは、著者のプロとアマの境目がなくなる
ことであり、コスト面で損益分岐点がぐっと下がるので、
これまでボツ企画となったような企画でも
電子書籍として出版される可能性が出てくることである。
読者にとってはより個性的な本が、より安価に読めるようになる
ということになるかもしれない。
本のようにある一定の分量がなくても「冊子」として売買が成立する
ようなことも考えられる。そうなると、「本」の概念はゆらぐ。
電子書籍が普及することで「本」はどうなっていくのだろう。


私的には電子書籍市場の拡大はもろ手をあげて賛成である。
いま出版業界で求められているのは読書人口を増やすことのはず。
内需がベースなのだから底辺を拡大しなければならない。
読者にとっては販売プラットフォームがアマゾンだろうと、
アップルだろうと、グーグルだろうと関係ない。
多くのラインナップが揃っていて、紙の本よりも割安であればよいのだ。
出版社は「鎖国」するより電子書籍で儲ける方法を考えるはずだ。
書店や取次に対する義理もあろうが、そんなことを言っている場合では
なくなってきている。大手出版社が巨額の赤字を出している現状がある。
目先の1円を死守するより、もっと先のもっと大きな利益を見据えるべき。
引いては活字を読む人が増え、知的レベルが上がり、日本全体として
繁栄する一翼を担うことができよう。
日本は残念ながらアマゾン、アップル、グーグルに対抗する
プラットフォームをつくって勝者となる企業が出る可能性は低い。
だったら、彼らがつくったプラットフォームにのっかって
うまく儲ける道を考えるべきなのだ。
今後も動向を常にウォッチしておきたい。