「アバター」

あの「タイタニック」を凌駕したという話題の「アバター」。
観てきました!
映画館で観た中で「もう一度映画館で観てもいいかな」と
思わせるほどのものを観たのは初めてです。
はじめにいっときますが、これは絶対に映画館で観るべき。
2時間40分まったく飽きさせない。
映像、ストーリー、キャラクターなどどれをとってもわかりやすく、
誰にでも楽しめる映画だと思いますね。
昔、赤と青のビニールがはられたメガネをかけると飛び出る
映像が見られたのを、30代以上の人はご記憶であろう。
あれは赤と青の映像を重ねることによって、
赤を通した目には青の映像が、青を通した目には赤の映像だけが
残ることによって、現実に左右の目がみるのと同じような
原理で映像をみることができ、立体に見えるというものだ。
今回の3D映像も基本的にはこれと同じ原理が使われているから、
特に目新しいものではないと思うのだが、飛び出して見えるというより
奥行きが広がって見える点が、以前の3D画像とは違っていた。
慣れない最初のうちはかなり違和感があるが、
それも30分を経過するころにはほとんどなくなって、
快適に観ることができた。



(ちょっと重い3Dメガネ。メガネの人はメガネの上からね)


(ここからネタバレがあります。ご注意を!)
ストーリーは22世紀に人類が宇宙に出ていく話。
豊富な地下資源をもつパンドラ星にナビィという原住民がいる。
人類はこの地下資源を得るため、原住民を立ち退かせようとする。
ところが、人類にも平和論者がいて、話し合いでことをおさめようとする。
原住民と人類を掛け合わせた“アバター”(分身)を原住民の村に送り、
平和裏に立ち退きさせようとするのだった。
このアバター、日焼けサロンにある日焼けマシーンみたいな機械に
人間がすっぽり入ると、人工培養したアバターに“リンク”し、
脳の動きだけでアバターを動かせるというもの。
主人公のジェイクはアバターをあやつって原住民の村に潜入する。
原住民は植物と調和して生きており、万物に神が宿るみたいな思想を
もっている。そこに一神教の人類がやってくるわけだ。


見ていると、これはアメリカの歴史そのものであり、
欧米人がたどってきた歴史そのものではないかと思えてきた。
文明の進んだ(と思っている)勢力が、文明の劣った(と思っている)
勢力を駆逐していった歴史だ。
前者は後者を「未開の民」として侮蔑し、
「われらの文明」に同化させようとする。
しかし、「未開の民」には自然と調和する豊かな暮しがある。
人類の地球上での失敗(自然を破壊してきた歴史)と
自由主義社会、資本主義社会へのアンチテーゼみたいなものが
織り込まれている。
八百万の神山岳信仰のなごりが体に染み付いている日本人にとっては
この映画に出てくる原住民たちの「土着信仰」みたいなものは
すぐに理解できるのだけど、一神教の人々には理解しがたく、
またそれゆえに荒唐無稽なつくり話にしか思えないだろう。


そういう意味では先日、再見した「もののけ姫」も同じような
テーマを扱っているといえなくもない。
自然と人類の共生みたいなことだ。
もののけ姫」はいまの時代にこそ合っている。
10年早かったんでしょうね。
アメリカも10年遅れてやっと人類と自然がどう折り合って生きていくか
みたいなテーマにたどり着いたんではないか。
でも「もののけ姫」との完全なる相違は、
最後にやっぱり戦争になってしまうというところ。
もののけ姫」は戦いではなく、万物を飲み込むものとしての自然を
描いているが、「アバター」ではやはり自然は人類が“保護する”
ものとしてしか見ていない。


アバター」でパンドラ星に乗り込んでいくのはある企業という話
になっているのだが、そこには主に3つの人が描かれている。
ひとりは利益(お金)のみを追求する人。
ひとりは武力行使によって目的を実現しようとする人。
ひとりは協調路線で平和的に物事を解決しようとする人。
この3つのグループがある意味、ステレオタイプ化されて描かれている。
資本至上主義、保守タカ派、革新ハト派というぐあいに
アメリカ人のタイプ分別にそのまま使えそうですね。
それぞれ経済面、政治面、社会面に重きをおいている。
それぞれの面から見て、資源獲得競争が人類の歴史においてどのような
影響をもたらしたか、あるいはこれからもたらすかを
示唆しているように思えた。
結果、経済面、政治面に重きを置いた人たちは敗れるわけだけど、
そのせいで本国では「これは反米映画だ」という批判があるらしい。
アメリカの映画で軍隊が負けるのってなかなかない。
自然との調和、他国との共生みたいなものにようやく考えが
いきつくようになったかなあと思う。
でも最後はやっぱり戦いなわけですが。


なかなかすぐにはまとめられそうにないのだけど、思うのは
この映画はついドンパチや3Dに目を奪われそうになってしまうが、
実は人類の向かうべき姿を問うた「問題作」かもしれないということ。


間違いなく本年度一番の映画でした。