『ゴーストライター』

タイトルに惹かれて読んだ。
多くのゴーストライターは、そう呼ばれるとあまりいい気はしないと
思うが、私は積極的に「ゴーストライターもやります」という。
そのほうが一般的には理解してもらいやすいからだ。
本書は、前英国首相が回顧録を出版するに当って雇われた
ゴーストライターが変死を遂げ、後任に選ばれた「私」を
主人公とするミステリーだ。
著者のロバート・ハリスは英国の作家で、ブレア前首相と懇意で
あったことから、本のなかの「前首相」はブレアのことでは
ないかとウワサされ、話題になった本だという。
明らかに映画化を意識したような、派手なシーンや、色っぽいシーンも
書かれているのだが、私としては「ゴーストライター」の仕事ぶりが
とても印象に残った。


たとえば、前首相は自分でお金を払うことがなかった点について
語ったとき、「カードが有効になっていなかった」という経験を
吐露するが「私」は、
「そういうささいなことが人間味を感じさせるんです」
と言ってみたりする。
また、


ときには自分を少しばかりさらしたほうが依頼人の内面を引き出せる


とか、


まだ書かれていない本とは、無限の可能性を秘めた胸躍る小宇宙である


といった至言もある。


仕事は絶対真理を強行に言い張ることではない。
(中略)美容師が客に対して、ヒキガエルを詰めた袋のような顔をしていますね、
などといわないのと同じく・・・


という指摘には思わずその通りだとひざを叩いたし、


多少の苦難ほどいいものはない。幼少期の性的虐待、ひどい貧困、
四肢麻痺。それなりの人にかかれば、そういったことが銀行の預金に変わる。


といった指摘にはうなった。
ライターを生業とする人には2倍、3倍楽しめる本だと思う。
460ページあるが、一気に読めてしまう。
謎解きとしてはたいした驚きはないのだが、主人公の心の揺れは
なかなかおもしろいものがある。
興味のある方はぜひ。