泣けなかった夏

コント山口君と竹田君を、
一日に別の番組で一人ずつ見かけたそそくさです。


いま高校野球が各地でたけなわですね。
私も高校野球を3年間やったので、思い入れはある。
毎年この時期になると、自分の高校最後の試合を思い出す。
当時、私の背番号は二桁だった。もう何番だったかも忘れた。
補欠という以外に何の意味もない番号だった。
一回戦に勝ち、二回戦で優勝候補と対戦することになった。
試合は最後5回ぐらいまで1点差でくらいついていったが、
6、7回にそれぞれ3点ずつ取られ、7回コールドで敗れた。
試合には出られなかった。それはそれでいい。
問題はそのあと。


ロッカールームではお決まりの監督の訓示があって、
みんなして泣いていた。
ぼくは泣けなかった。試合に出られなかったからではない。
ふと見たら、練習に来なかったヤツも泣いている。
「こりゃなんだ」って思ってしまったわけ。
なんだかやすっぽいメロドラマを見せられているようで
一気に気持ちがさめてしまったので、
みんなが泣いている間、鼻毛を抜くことにした。
試合はがんばった。いい試合をしたと思う。
毎朝練習をしたものもいた。彼らは泣いてもいい。
でもね、練習にも来なかったメンバーには
「お前それでよく泣けるな」って言いたかった。
「これで自分が泣いたら、努力していたヤツに申し訳ない。
おれは彼らほど努力していない。泣くなんて恥ずかしい」
そう思ったら涙なんか一滴も出なかった。
こんな青春ごっこには付き合っていられない――。


卒業して当時のチームメートたちにこのことをしゃべったことはない。
話したらどう思うかなあ。
あの、誰もが涙してしまう、感動の場面で
しらけきった人間がひとりいたんだから。
高校野球の、あのムードは誰をも青春の真っ只中に一瞬で
ぶち込んでしまう不思議なパワーがある。
素直で純粋な少年たちが真っ青な空の下で純白の球を追う、
それだけで大人に郷愁を感じさせるツールは揃う。
「若いっていいなあ」と思わせるのに十分だ。
でも、本当の高校野球なんてめちゃくちゃドロドロしている。
それがあの場所でだけは、なかったことのようにされてしまう。


青春ごっこに付き合わなかったぼくは、大学でも野球を続け、
高校のとき以上に自分なりに努力した。
もう青春ごっこはごめんだったからだ。
大学の最後の試合では一人だけ号泣した。あの夏の分も。
大学の最後の試合もやっぱり夏だった。
次に夏に帰省するときは、あの夏のことを当時のメンバーに
話してみたい。それが許されるぐらいもう十分に時は経った。
みんなで笑ってくれたら嬉しいな。