ブラッド・ダイヤモンド

ブラッド・ダイヤモンド movie

この一週間で『出口のない海』『ナイロビの蜂』『華氏911』、そして
ブラッド・ダイヤモンド』と観てきた。
なんという重い映画ばっかりなのだろう!
ま、好んで観たわけですが(2回目)。
(ネタバレに注意してください。人によってはネタバレと感じるかも)
西アフリカの国・シエラレオネでは政府組織と反政府組織が
採掘場の権利を奪い合う。
何の採掘かというと、ダイヤモンドなんです。
でも、犠牲になる人たちは何にも知らない市民。
ダイヤを見たことのない人がいっぱい殺される。だから、
ブラッド・ダイヤモンド(血塗られたダイヤモンド)」というわけ。
アクション大作の体裁を借りた社会派映画です。
最近、この手の娯楽作品の佳作が多いですね。
黒人が出てくるとレゲエ音楽(?)とか、ラップが流れるのが
ステレオタイプで嫌だったけど、内容はものすごく辛らつ。
ダイヤモンドの原産地となっているアフリカ中央、西部では紛争の
資金源のためにダイヤモンドが取引されている。
(武器と引き換えにダイヤモンドで支払いが行われている。
この意味でダイヤを差し出すアフリカの国は二重に搾取されている。
→映画『ロード・オブ・ウォー』参照)
こうした「紛争地ダイヤモンド」は全体のダイヤモンドの4%を
占めていたのだそうです。
シエラレオネでダイヤを密売するディカプリオ氏扮するアーチャー、
子どもを反政府組織に奪われた現地の漁師であるソロモン、
女性ジャーナリストのマディーの3人を中心にストーリーは展開する。
ダイヤモンドに価値を見出す人がいる限り(ダイヤモンド買う人がいる
限り)、搾取され、紛争で命を落とす人がいるということを言っている
映画でした。
こういう話は、昔は象牙とか毛皮でした。
でも今はダイヤモンド、ゴールド、原油などです。
アフリカの資源がある国では先進国に搾取されている構図があり、
先進国に住んでダイヤを買う人一人ひとりが、回りまわって紛争に
一役買っているというわけです。
シエラレオネではダイヤモンドが腐るほど採れていて、
それを買った欧米の企業が一時封印してダイヤの値崩れを防ぐ。
希少価値がついたところで売り出すわけです。


ぼくはこの映画を観て、「価値」とはいったんなんだろうかという
問いが頭をぐるぐるまわって、なかなか整理できませんでした。
ダイヤモンドの価値とはいったいなんだろうか。
希少価値なのだろうか。では希少価値っていったいなんだろうか。
希少であることが、人の虚栄心を満たすファクターになるのか。
富の象徴としてのダイヤなのか、美を求めるものとしてのダイヤなのか。
ダイヤモンドの原石自体は買うときよりもはるかに安価なものです。
原石の価格は店頭価格の1〜2割ぐらいではないでしょうか。
しかし、そこにカットや研磨の技術料がのっかり、店頭に並ぶときに
5〜10倍の値段になります。カットや研磨はインドやベルギーの
アントワープなどで行われているようです。
私たちはその技術料を買っているとも言えます。
問屋など仲介業者がたくさん入るからという事情もあるようです。
大枚をはたいて買ったダイヤモンドが、血が流れた末に流通した
ものだったとしたらやりきれないですが、日本には紛争地ダイヤモンドは
入ってきていないらしいです。本当のところはどうだかわかりませんが。
現在、シエラレオネは平和な状態にあり、正規の流通ルートで
ダイヤモンドを輸出し、重要な外貨獲得手段になっているということです。
当然、ダイヤモンドで食べている国民がたくさんいるといいます。
おそらく業界団体だと思いますが、WDC(ワールド・ダイヤモンド・
カウンシル)という組織のサイトにそのようなことが書かれてあります。
ダイヤのおかげで学校や医療でサービスが受けられるとしたら、
その意味では、私たちはダイヤモンドを買っていいのでしょう。
ダイヤモンドを買わないのは簡単ですが、そのことでインドや
アントワープの人たちの職を奪うことになるかもしれません。
そう考えていくと、何に価値を見出せばいいのかわからなくなってきます。
ちょっとやそっとでは整理がつかない問題です。
問題は、ダイヤモンドを武器と交換し、武器が必要となるように
紛争を長引かせるように仕向けている、私的な目的を達成しようとする
勢力(どこかの国の政府や企業)であるということだと思いました。
そして、私のような何も知らない消費者でもあると。
ナイロビの蜂』『ロード・オブ・ウォー』と一緒に見ると、
そういうことを考える手助けにはなります。
どうやって世の中が回っているかちょっとだけわかった気になれます。
搾取の構図を是正しようという試みは、ダイヤモンドにおける
「キンバリー・プロセス」(この制度によって「紛争地ダイヤモンド」は
全体のダイヤの1%以下になったという)や、主に農作物における
フェアトレード」で行われています。
一人ひとりの「消費行動」で世界を変えていける可能性がある。
私にもできることがあるということです。
これらのことをもっと深く理解するために
もっと勉強していこうと思いました。
そういう気にさせてくれただけで、観てよかったと思える映画でした。
エンターテイメントとしても相当におもしろい映画ですよ。


最後にこの映画で印象に残ったやりとりを。
ソロモンがアーチャーに問う場面があります。
ソ「お金がほしいのか」
ア「そうだな」
ソ「お金を手に入れたら結婚するのか」
ア「たぶん、しない」
ソ「生きていくのに十分なお金を手に入れたら(密売を)やめるか?」
ア「それもたぶんやめない」
ソ「理解できないよ」
ア「俺にもわからないんだ」
これはそのまま先進国側と途上国側の論理を代弁していると思ったし、
先進国側の迷走ぶりを象徴していると思った。
私たちはいったいこの先何がしたいのでしょうか。
食と物に満たされた末に、何をすればいいのでしょうか。
もう人間はやることがなくなってきたのかもしれません。