「飛ばないようにするのも技術」

プロ野球で飛びすぎるボールが問題になったことがあった。
ホームランが出すぎて、大味な試合展開になるからというのが
その理由だった。
そこで「飛ばないボール」をつくるようにメーカーに指示が
なされた。そのとき、プロ野球関係者がこう言った。
「ボールを飛ばないようにするのも技術である」
なるほど、とうなった。
私たちは進歩というと、前に進むもの、速く進むもの、遠くに飛ぶもの
強くすること、多くつくることというものをイメージする。
「前・速・遠・強・多」
こういう漢字が並ぶと進歩をイメージする。
けれどこれが、
「後・遅・近・弱・少」
となるとどうだろうか。
どうしても時代遅れのイメージになってしまう。
プロ野球のボールの場合は、遠くに飛ぶことで逆につまらなくなる
場合もあるから、遠くに飛ばせない技術が必要になった。
技術者が試行錯誤して飛ばないボールをつくったおかげで
ホームランが乱発しないようになり、投打のバランスは保たれた。
野球がおもしろくなることが目的だから、
これこそが技術者の「勝利」というものだろう。
ひるがえって私たちの生活を見直してみる。
あまりにも「前・速・遠・強・多」にとらわれていやしないか。
速い電車に乗り、多くの物に囲まれている生活だけが進歩か。
シンプルな生活をするのも前進とは言えないだろうか。
少ない物に囲まれ、ゆっくりと近くを散歩するような生活は
けっして時代遅れとは思わない。
技術や科学の進歩はいったい何のためか、
定期的に立ち止まって考えてみる必要がある。