セミの人生 

セミって釣れるんですってね。
獲るんじゃあないんです、釣るんです。
どこでもいい。今から外に出て、今からセミが鳴いている木の根っこ
の辺りを見てごらんなさい。
10円玉ぐらいの穴があるでしょう?
今はもう遅いけど、夏のはじめにこの穴に枝を突っ込むと
セミの幼虫が枝につかまって出てくるんですって。
これってまさしく釣りじゃないですか。
それにしてもセミって最近よく転がってますね。
よくお父さんが息子に言う。
セミは7年も地中で幼虫で過ごして、7日しか地上で
生きられないんだ。かわいそうだから逃がしてあげようね」と。
それは違うと思う。
地上での7日間はセミにとっては晩年なのだ。
幼虫のときが彼らは一番たのしいのだ。
彼らは人生のほとんどをたのしい地中で過ごしているのだ。
幼虫のときはつまらないと誰が決めたのか。セミに訊いたのか。
彼らは毎夜、地中で呑めや歌えの宴を繰り広げている
かもしれないではないか。
セミが地上で7日間生きるのは最後の最後の話なのだ。
地上のほうが晩年でしんどいから、彼らは毎日鳴いているのだ。
だから、お父さんは息子に、
セミの地上での7日間は、彼らにしてみればおじいちゃんとしての
最後のたのしいひと時なんだ。お前のおじいちゃんが縁側で
碁盤とにらめっこしているのと同じなんだ。彼らの晩年を
邪魔しちゃいけない。だから逃がしてやろうな?」
と言わなければならないのだ。