映画『スモーク』を観る

スモークというからには、たばこをモチーフにした
映画なのだろうと思うが、たばこについて何かしら
語ることは、この映画の中では皆無だ。
ただ、ストーリーが進んでいく中で、登場人物たちが
いつもたばこを吸っている。
ストーリーとしては、親子の愛情、男の友情、他人との
間に生まれた愛情のようなもの、などが活写される。
そういうストーリーの中に、たばこがどういう役割を
果たしているのか、考えてみた。
出てくる登場人物たちは、決してめぐまれた人たちではない。
特別な能力を備えたスーパーマンでもない。
話がカタストロフィ(大団円)にまとまるわけでもない。
だが、「人が人と関わる」ということについて、この映画は
大事なことを語っているように思えた。
道で偶然会った肌の色や年齢の違う人であったり、
昔別れた恋人であったり、言うことを聞かない娘だったり。
一度、人間関係を結んだのなら、事が終わったあとでも
知らん振りを決め込むのではなく、何かその人とかかわりを
持とうとする。持たずにはいられない。そういう人間としての
本性を、この映画は描いているのではないか。
この「持たずにはいられない」ということが、たばこの
「吸わずにはいられない」と重なって見え、たがこが人間臭さの
象徴として描かれているような気がした。
登場人物の一人は、盗んだカメラで十数年間も同じ時間、
同じ場所で写真を撮り続けることを自分に課す。
それは、一度、人間関係を結んだ人からカメラを
盗んだことへの、彼なりの贖罪だったのだと思う。