「容疑者Xの献身」

東野圭吾氏の作品はいくつか読んだり、観たりしている。
その中でこの作品だけは映画だけ。
東野ファンには原作に忠実でないとの批判があるけど、
映画はなかなかよくできていて良かった。
でも、主人公の意見を聞いてまわるだけの芝咲コウが役不足すぎて
ちょっとかわいそうだった。
冒頭の爆破シーンとか、雪山のシーンなど、何か「映画的なもの」を
求めて入れただけのシーンのような気がして、あまり意味がなかった。
いつも思うのだけど、映画っていうのは、夜9時から2時間やってる
テレビで流されたものだけがつくられているんではなくて、
爆破や派手なドンパチがなくても非日常を描く傑作はあるんですよね。
時間が限られているわけだから、人間描写にもっと割いてほしかった。
母子家庭で起こった殺人に手を貸す「容疑者X」こと、石神という人物が、
完璧なアリバイ工作を考え出す。
それを天才物理学者・湯川が解き明かすというストーリー。
ここでネタバレしてしまいますが――


石神はホームレス殺人を犯し、遺体を偽装して、
アリバイをつくりだす。
なぜ石神はアリバイ工作だけでなく、殺人まで犯したのか。
石神は厭世感から自殺を企図する。
そこにやってきたのが、ハツラツとした母子だった。
その母親に愛情を抱いた石神は、自分が犠牲となってこの母子を
救うことを決心したわけだった。
石神は自分の無力さを感じて、将来に失望していた。
通勤途中で見るホームレスと自分を重ね合わせていた。
だから、死んでも誰も困らない(と思っている)彼らを殺した。
自分を殺せるから、ホームレスも殺せたわけだ。
石神はホームレスを殺すことに何の罪悪感もなかった。
母子が矛盾なく、アリバイを供述するためにはこれしかなかった。
すべてのホームレスが人生に失望し、生きる気力をなくし、
死んでも誰にも悲しまれない存在だと思ったところが
石神がはまった陥穽だった。


東野氏の作品はミステリーの上に、社会性と人間ドラマが
重層的に構成されているけれど、この作品も期待にそぐわぬ出来でした。
原作もぜひ読んでみたいものです。