歯車

言うまでもなく、歯車は機械に使われる重要な部品の
一つだが、企業人が自分のポジションを自嘲気味に
語るときにもこの言葉が使われる。
ぼくはこのような用法はあまり好きではない。
自分のことを「会社の歯車」というとき、
人はだいたいいい意味で使ってない。
「ただ、回るだけ。さして重要な役割ではない」
というニュアンスを明らかに含んでいるからだ。
ちょっとまってくれ。
歯車がないと、これまでの工業の発展はなかった。
歯車がなければ、飛行機や船、車はもちろんのこと、
時計や扇風機など、身の回りにあるほとんどの
ものが動かないのだ。
そうそう、あなたがいま使っているマウスだって
歯車がないと動きはしないのだ。
歯車はいろいろな大きさがあるが、どんな大きさの
歯車にもおそるべきしかけがしてある。
何千分の一ミリという単位で精度を高めてある。
直径1メートルの歯車でさえ、ミクロンの単位で
精度が求められる。
歯車の歯にも決まったカーブの形があり、物理的に
すべて計算されつくしてある。
そうでないと、すぐに磨耗して大きな音がしたり、
使い物にならなくなるからだ。
企業の〝歯車〟もそれと同じで、企業人一人ひとりは
ものすごく大切な存在なのだ。
一見、単に回っているだけの小さな一つの歯車が
一個なくなっただけで、もう動かないのだ。
自分を卑下して歯車などと、絶対に言うべきではない。
歯車の精度を出すために、歯車をつくっている
職人さんたちがいまも心血を注いでいる。
歯車をつくっている人たちの努力を知れば、
そんなことは絶対に言えないはずなのだ。
自分を歯車だと思っている人がいたら、
ぜひ歯車をつくっている町工場に見学に行って、
歯車をつくるのがどれだけ大変か知ってもらいたいと思う。