虚実の被膜の間 

また上岡龍太郎さんの話題をひとつ。

上岡さんは笑福亭鶴瓶さんとのパペポTVという番組の中で、

男に対しては握手をしないと公言しており、それどころか

「いつも見てます」といってファンが近づいてきたとき、

「君に見てもうて僕になんの得があんねん。

君は僕と話したことで思い出になるかしらんけど、

僕にはなんの得もあらへん」

といって追い返すといっていた。

ところが、一連の追悼記事の中に、そういう男性ファンからの

コメントの書き込みがあった。

そのファンは握手してくださいと上岡さんにいうと、

しっかり握手してくれたらしい。

そして、そのファンが「断られると思ってました!」というと、

「握手せえへんって言おか?」といってニヤッとわらったらしい。

「君に見てもうて僕になんの得があんねん」というのは、

芸人・上岡のキャラを守るためのウソだった。

「虚にして実にあらず、実にして虚にあらず。

虚なのか、実なのか、虚実の被膜の間をさまようのが芸」

上岡さんはこういう言い回しが好きだった。

ウソと真理の間を自在に行き来した稀有な芸人、

それが上岡さんだった。