先祖の因縁はあるか 

岡山にいたころは毎年お盆の時期にはお墓参りをしたので、

東京に来てしなくなると何か決まりが悪い。

それぐらいの宗教心しかない私だが、宗教者の話でひっかかることがある。

それは「先祖の因縁」によって子孫に悪影響があるということを

語る宗教者がいるからだ。

守護霊は守りもするが、いたずらもする、

成仏していない一族の誰かがいるのではないか、というのだ。

私は、先祖崇拝は大切なことだと思っているが、

それは命のつながりを意識するため、先祖に対して感謝するためであって、

それによって現世で自分が利益を得ようとか、

不幸から免れようと思ってのことではない。

亡くなった人の影響が、いま生きている人に及ぶようなことは考えたくない。

かつては業病といって、前世の悪行によって病気になるという考えがあった。

ハンセン病などがそうだ。

これは原因がわからない病に対して、自らを納得させるために

宗教を借りて説明しようとしたものだったと思う。

だが、いまハンセン病は科学的にらい菌という細菌によって

かかる病気であることがわかっている。

人生には不条理で不合理なことが起こる。

なぜなのだと考えても理由はわからない。

理由がわからないと不安が増すばかりだから

自分を納得させる理由がなにか必要だ。

そういうときに先祖の因縁を持ち出すのは、

宗教的な考えとしては自然なのだと思う。

だが、現世の人が苦労するのは、先祖の悪行が理由だというのだが、

良い悪いは誰が判断するのだろうか。

時代が違えば善悪の判断は変わる。

現象だけを見て普遍的な善悪を判断することなど不可能だ。

では先祖崇拝の意味とはどんなところにあるのだろうか。

それは先祖という自分の背景を知ることにより、

自分の進むべき道を理解することにあるのだと思う。

親や祖父母、血縁者のことを知って、その人の立場を知れば、

どうしてそのような行動をしたのかわかってくる。

それによって自分の生き方もわかってくる。

死んだ人が影響を与えるとしたら、それは

「自分の中で納得感が出てくること」だと思う。

影響を受けるとしたらそういうことであってほしいな。