認知症のリアル

NHK「母と息子3000日の介護の記録」という
NHKの元ディレクターだった相田さんという人が、
認知症である実母を自ら撮影した番組を見た。
これまで何度も認知症をテーマとした書籍や映像を見て
いろいろな切り口からのものがあった。
今回は、息子目線で撮った映像を各分野の専門家が見て、
どんな対処法があるか、知恵を出し合うというものだった。
印象に残ったのは二つ。
一つは、便の問題。
彼の母はたびたび大便を失敗するようになり、
彼のストレスもたまっていく。
介護福祉士の人が番組で言っていたのは、
起きてからの対処ではなく、起きる前にトイレに連れていく
生活のリズムをつくることを改善案として提示していたことだ。
これは子どものトイレトレーニングと一緒だと思った。
本人だって失敗したいと思ってやっているわけじゃない。
不安なこととか、うまくできない理由があるのだ。
もう一つは、看取りの問題。
番組の後半は、認知症患者の介護というより、終末医療
話になっていった。
自宅が自分の城であった相田さんのお母さんは
自宅で最期を迎えることを希望した。
でもそれは叶わなかった。
食べないと死ぬからと、無理に口に食べ物を運んでいたのが、
嚥下障害で慢性的な誤嚥性肺炎を引き起こして入院する。
飲み下す力がなくなると、誤嚥性障害になることは知っていたが、
慢性的にも肺炎になることを今回初めて知った。
食べられなくなったら、無理に食べさせてはいけないという。
ここで多くの人は、胃ろうを選ぶ。
胃に穴を開けて栄養を流し込む。
だが、この胃ろうは本人がとても苦しむのだという。
体は栄養を欲していないのに、胃に栄養が流れ込むからだ。
胃ろうを付けず、水だけを与えていれば、
安らかに最期を迎えられるのだが、まだ体温もある生身の体を
前にして「食べ物を与えない」という選択肢を取れる人は少ない。
もうここでは認知症とか関係ない。
最期をどう看取るかという話で、
誰もが直面する可能性のある話だった。
最期を誰が看取るのか。相田さんの場合は、息子さんだった。
誰かがやらなければいけないことを、
自分の手でやったこの息子さんは単純にすごいと思った。
子どもの世話と一緒だと上に書いたけど、
子育ても介護も、限界になる前に周囲の人の助けを借りることだ。
人の手を借りることは、恥ずべきことでもなんでもない。
逆に自分が助けを求められたとき、手を差し伸べられる状態である
ことがやっぱり大切だと、また改めて感じた。