「僕がジョンと呼ばれるまで」

アメリカのクリーブランドという都市の老人施設での、
日本式の認知症改善プログラムの実践の様子が
描かれたドキュメンタリー映画をみた。
タイトルは、「僕がジョンと呼ばれるまで」。
老人施設の職員であるジョンの視点を通して、
入所者の認知症がどのように経過していくかが
わかる内容となっている。
最初、入所者はジョンの名前を答えられないが、
改善プログラムを数ヶ月行い、ついに
「ジョンでしょ。さっき教えてくれたじゃない」
と答えるのだ。もうこの瞬間だけで感動である。
その改善プログラムというのは、脳トレで一躍有名になった
川島隆太東北大学教授らが開発した「学習療法」と呼ばれるもの。
簡単な読み、書き、計算を、スタッフ1人と入所者2人が、
コミュニケーションを取りながら行うというもの。
これらの学習をすることで、脳の前頭葉という、おでこの裏側に
ある部分を刺激し、記憶能力を改善するというもの。
なぜそうなるのか、科学的な根拠はまだよくわかっていないことも
多いが、この改善プログラムはすでに日本で10年以上の実績がある。
認知症がいったん発症すると、元に戻ることはなく、
進行をスローダウンさせることしかできないと思われている。
つまり、良くなることはないわけだ。
でも、この映画の老人たちは、明らかに良くなっている。
目に生気が戻り、昔やっていた編み物ができるようになった人までいる。
この改善プログラムは、読み書き計算をやるだけがいいのではない。
スタッフとコミュニケーションを取ること、
達成感を得られるようにしていること、
この2点が認知症の改善に関与しているという。
私もそう思う。
完全に原理がわからなくてもよい現象が起こっているということは
世の中に無数に存在する。
効果があることがわかっているのなら、やってみる価値はある。
この改善プログラムはもっと知られていいはずだが、
私は認知症関係の本をいくつも読んだのに、この情報には
これまでぶつからなかった。なぜなのだろう。
ともかく、入所者がみるみる生き生きしていき、
家族に笑顔が戻っていく様子は、単純にすごいことだ。
認知症の人がたくさん入っているこの老人施設で
改善が認められたのは、一人や二人じゃない。
多くの人が良くなっている。
なぜこの話を今まで目にしなかったのか、本当に不思議だ。
今では簡単な計算と運動を組み合わせる療法が行われていたりする。
効果のある認知症の薬も開発されつつある。
認知症が治る時代が、もうそこまで来ているのかもしれない。