『人が死なない防災』

東日本大震災から1年経って、時間もでき、
震災の教訓を自分の中で一度整理しておこうと思い、
手に取ったのがこの本。
著者は群馬大学で防災研究を行なう片田敏孝教授。
片田教授は震災前から岩手県釜石に何度も通い、
当地の小学生たちに防災教育を行なってきました。
その成果が、釜石の小中学生の生存率99.8%となって、
メディアで「釜石の奇跡」と呼ばれたのはよく知られている。
教授が子どもたちに教えたのが、三つの原則だ。
すなわち、
1.想定を信じるな
2.最善を尽くせ
3.率先避難者たれ
というものだった。
自然というのは常に想定を超えるものであるから、
想定を信じず、その場での最善を尽くせというのです。
そして、家族のきずなが犠牲者を増やすことにつながったので、
まずは自分で自分の身を守れと説いたのです。
なぜ家族のきずなが犠牲者を増やすことになるのかというと、
一度避難して助かっても子どもを探しに行って津波に呑まれた
というケースが後を絶たないからだというのです。
だから、自分の身は自分の守れ、というわけです。
この本では防災意識を高めるためにとても大切なことが
たくさん書かれているのですが、
そのひとつに「正常化の偏見」というものがある。
別のメディアでは「正常性バイアス」という言葉を使っていました。
危険なことなど起こっていないという考えたい人間心理が
存在するのだといいます。
人間はどんなに危険だと事前に知らされていても、恐怖を前提に
毎日暮らしていくわけにはいかないので、大丈夫だと信じ込もうとする。
それが「正常化の偏見」です。
だから逃げられなかったのだということです。
災害をテレビでみた私のような人たちは、
「海の近くにいて、なんで逃げないのだ」とすぐに思うのですが、
逃げるということが、いかに難しいかがわかります。
逃げなかったのではなく、逃げられなかった。
それは物理的な問題ではなく、心の問題でした。
大切なことのもうひとつが「過剰な行政依存」です。
もうこれは日本人なら誰もが思い当たる節があるのではないでしょうか。
日本の行政は本当によくやってくれます。
いたれりつくせりです。
役場ほど頼りになるところはありません。
だから依存的になり、役所から警報がなかったから逃げなかった、
役所が悪いという発想になっていきます。
そういう姿勢が最も危険だと教授はいいます。
そのため、「内発的な自助」の精神を育てることが大切だというのです。
役所に言われるから逃げたり、防災訓練をするのではなく、
自分の身は自分で守るという当たり前のことを、
自分の頭で考えて自分の責任において実行するということです。
本書の中でも教授が訴えているのですが、復興の話も大事だけど、
こうした教訓を伝え、人が死なない防災の必要性を述べるメディアが
あまりにも少ないと感じます。
首都圏に日本人の人口の4分の1が集中する現状では、
視聴者、読者受けするのは原発の話であって、津波の話ではないからです。
しかし、たとえ内陸に住んでいても洪水、土砂災害の危険はあります。
「その時」が来たら、どう行動すればいいのか、私たちはほとんど
教育を受けていないのです。
一人ひとりが防災について、内発的に考える必要があるはずです。
自分の中の防災意識を高める意味でも、大変意義のある本だと感じました。