ただ、「やれ!」でなく

人の上に立つ人はこうなんだなと思うがある。
私が仕事をはじめたときからの出版業界の大先輩で、
その世界ではよく知られた人のことである。
昔はよくいう名物編集長みたいな人で、クセはあるが私は好きな人である。
ある意味では大変尊敬できる人であり、ある意味では絶対にマネしたく
ない部分も持ち合わせている。とにかく、魅力的な人なのだ。
そのクセの強い彼と一緒に仕事をすることがある。
仕事を依頼される。だいたい「こういう取材に行ってくれ」
というものだ。正直、おもしろい取材ばかりではない。
そういうとき、彼も必ず顔を出す。
つまらなさそうな取材ほど顔を出す。
ただ、「やれ!」だけではない。
人がついてくる人はこうなのだ。
口だけでは人はついてこない。
嫌なこととか、苦しいことを、一緒にやってくれようとする。
これができない人が案外と多い。
「そういうのをやらないでいいように出世したんだ!」
という人もいるだろう。単純なことなのだけど、
偉くなるとできにくくなるのだと思う。
高齢で、それなりの地位にあった人がなかなかできないであろうことを
彼は平気でやる。当然、私たちがやらないわけにいかない。
そういうのがわかるから、こっちもがんばろうとする。
「カイヨリハジメヨ」と古来、異国の人はいったが、うなずく。
もし自分が上の立場になったら、こうありたい。