責任を負うこと

机上の事務仕事をするスタッフを派遣する会社の社長さんを
取材したとき、こんな話を聞いた。


20、30代でこれまで正社員で働いてこなかった人たちを
採用しているが、彼らは時給を上げると辞めてしまう。
責任が重くなると思うからでしょう。


これは契約社員が増えだした5,6年前によく言われていた。
金持ちにならなくてもいいし、アルバイトのほうが気楽だと。
それまでは社員にやる気を起こさせるには、
責任ある仕事を与えることだといわれてきた。
いまでももちろんそうなのだが、責任ある仕事は重荷だと
感じる人も増えているということだ。


私はこの話を聞いたとき、なんて情けないと思った。
それまでずっとそうやって生きてきたのだろうから、
無理からぬことなのかもしれないと、思ったりした。


数日して、上司から提出する企画の数も質も足りないと指摘され、
酒をしたたか飲んで帰る電車の車内で、ボーっとした頭で考えた。


なぜ企画を出せないか、自分で「責任負うのは面倒だ」と
思っていた節が少しはあるのではないか。
時給を上げられて辞めて行く人を、自分は笑えない。
自分だってそうなんじゃないか。同じじゃないのか。
自分で企画した本が売れないことは責任を負うことだ。
責任を負うことから逃げていないか?


おもしろいことができるポジションにいるのに、
長い間業界にいるうちに、なんとなく仕事ができる気になっていた。
ある出版社の、元名物編集長が言った。
「企画を出さない人は、この世界にいちゃいけない」
その通りです。
やるべきことが見えてきた気がする。