「簡単本」は悪くない

書店員さん数名と座談会をする機会があった。
書店員さんとはずっと話をしてみたかった。
本来は取り次ぎとのこととか、どういう本がどういう売れ方をするのか
聞きたかったのだが、今回はそういうわけにもいかず、私的には
いささか消化不良だった。


彼女らの話で印象に残ったのは、
どちらかの本を平積みから撤去しなくてはいけなくなったら、
かたそうな本を残すということ。
また、「頭が良さそうな」書棚作りをするように心がけるという。
「簡単本」は真っ先にはずすのだというのである。
私としては、残念な意見だった。
確かに私のつくっている本は、一般の書籍であって、
テキストだったり、重厚な本はつくらない。
それほど頭がよいと思われる本をつくっていない。
かといって、彼女らがいう「簡単本」ほど簡単な本もあまりつくらない。
彼女たちは確かに商品知識も豊富で、本が大好きであろうことは
よく伝わってくるのだけど、「簡単本」とあまり割り切ってほしくない。


本が大好きでよく読む人は、文字数の少ない「簡単本」を
バカにする傾向がある。そういうのを読む人もバカにしている。
タレントが書いたような本も売れていると、やっかみも加わって
なおさらバカにする。
ぼくはよく思う。
売れていない本にはいい本とそうでない本があるが、
売れている本に悪い本はないと。
本は知識を得るためだけのものではない。
単に笑って、それが後に残るものが何もなくても、
読んだ人の気分転換になり、「よし、明日またがんばろう」と思えれば、
その本にはそれだけで価値がある。
簡単本でも役に立っていますよ。
私自身、高校1年生まで本をほとんど読まなかった。
だから、本を読まない人のこともよくわかる。
最初は読むのにとても時間がかかった。
私など本を一冊読みきるのに数週間はかかった。
読むとすぐに眠くなるし、ひどく疲れる。
でもそれは最初のことで、慣れれば読むのは早くなり、
疲れなくなり、おもしろさはどんどん増した。


「簡単本」は日常的に本を読む以外の人も活字の世界に誘う。
それで本のおもしろさに気づく人だっている。
なにせ私自身がそうだったから。
入口は文学作品である必要はない。
タレントが書いた「簡単本」だっていいし、
ハリーポッター」だっていいのだ。
まず読むこと。
活字のおもしろさに気づいたら、
あとは放っておけば勝手に読むようになるんだから。
書店だって、日常的に本を読む人を増やさなければ、
ジリ貧になっていくのだから、自分の家の書棚みたいに
見栄を張らないほうがいいと思う。
出版業界だって、ゲーム機の「Wii」みたいにマーケットを
広げることを考えないといけませんよね。