「素」になれる場所

6週間に一度の散髪の日、私は自転車で10分のカットハウスに行く。
きっかり15分でカットしてくれるし、980円のわりに技術も
そこそこ確かなので、なかなか重宝している店である。
9時30分の開店と同時に入店し、9時45分ごろには出る。
そして、家に帰る途中に大きな野球場がある。
数千人が収容可能で、もちろん硬式野球もできる。
高校野球の予選で使われもする。
私も何度も試合をしたことのある思い出の球場でもある。
その球場に、散髪の帰りにフラッと立ち寄ってみる。
階段を駆け上がる足に力が入る。
スタンドに出た瞬間に世界が変わる。
現実ではない、非現実に自分を放り込む。
それは、後楽園ホールでも、秩父宮ラグビー場でも、国立競技場でも、
横浜アリーナでも、日本武道館でも、東京ドームでも同じだ。
ああいう感覚が得られることはあまりない。
公園でも、映画館でも、洒落た喫茶店でも、コンサートでも、
飛行機でも、「スナック順子」でもそれは無理だ。
そういうときは、「素」になる自分を感じる。
ライターでもなく、夫でもなく、ましてや「そそくさ」でもない、
目に飛び込んでくるボールだけを追う「素」の自分。
球場に足が向くのは、素の自分に会いにいっているのだろうか。