泣かせるなよ

その会社は大手企業ではない。中小零細企業だ。
だが、モノをつくっている。
モノをつくるから、いろんな人に協力してもらわなければならない。
大手企業の仕事も中小企業の仕事も請け負うが、
その会社からも仕事を発注する。つまり中間で仕事をしている。
その会社は人がいいので、受ける仕事のギャラはしぼられるが、
発注した仕事のギャラはしぼらずに支払う。
入ってくるお金は少なくなり、出て行くお金は変らない。
そうすると、どういうことになるか、誰でも想像がつく。
泣かせるなよ。
出て行くお金を削るのは経営の基本だ。どこも苦しい。それはわかる。
その会社はまだいいほうだ。
同じ業界の中でもギャラをしぼって個人営業主はひいひい言っている
という話も聞こえてくる。そんな人たちを
泣かせるなよ。
いまは好景気というけれど、業界によってはその恩恵を受けていない
ところもある。ギャラをしぼっているのは、好不況にかかわらず、
大企業、中小企業も関係ない。ギャラをしぼる会社は、大きくても
小さくても好景気であろうが、不景気であろうが同じことをする。
その会社が発注している仕事はほとんどが個人営業主だから、
彼らのギャラが減ればすぐに生活が滞ることを、その会社の
社長は知っているのだ。
泣かせるなよ。
その会社の社長はそれでも「まあいっか」で笑っている。
税務署が来たときも何の「お土産」も持たせなかった。
中小企業の経営者なら誰でもする「法の抜け穴探し」をしなかった。
自分の取り分がなくなっても、社員に給料を払い続けた。
まったく、泣かせるなよ。