「インビクタス 負けざる者たち」

クリント・イーストウッド監督、モーガン・フリーマン主演、
脇をマット・デイモンが固めるなら、観ないわけにいかないと
珍しく公開初日に映画館に足を運びました。(ネタバレあります)


この映画は南アフリカの黒人指導者で、大統領となった
ネルソン・マンデラ氏のある一時期を描いている。
マンデラ氏は大統領になった翌年に自国でラグビーW杯が行なわれる
ことを知り、人種差別の象徴的存在だった代表チーム、
スプリングボクス」を通じて祖国をひとつにしようとする。
そこで、代表チームの主将ピナール(マット・デイモン)に
協力を依頼するといったような内容。
思わせぶりなセリフはなく、「もっと熱く語ってくれてもいいのに」と
こちらが思うぐらい、淡々とストーリーは進む。
でもそれだけにリアルさがひしひしと伝わってくる。


肝心のラグビーチームの中には黒人選手がひとりしかおらず、
白人と黒人が融合していきながら、チームが強くなる話ではない。
そこのところは、大統領を守る「警備チーム」が担う。
新しく警護を任じられた黒人チームのところに、
大統領は白人大統領時代にその任についていた白人チームを送る。
黒人チームのリーダーはいう。
「大統領、どういうことですかこれは?」
劇中のマンデラはいう。
「許しなさい。そして黒人と白人がまとまる模範となりなさい」
代表チームが勝ち進むと同時に彼らがまとまっていく。
映画として必要な要素であるのに、史実と違ってしまうため
代表チームにできなかった役割を「警備チーム」にやらせたのだ。
この構成が違和感なくはまっていて、物語を深みあるものにさせている。


表題の「インビクタス」とは「屈服しない」ぐらいの意味で、
マンデラ氏が獄中でのよりどころとした詩のタイトルだという。
マンデラ氏がこの「インビクタス」をどのように受け取ったのか、
私が考えるに、
「自分の内側からこみ上げてくる怒りに負けない」という
意味ではなかったか。
人種問題は怒りから来る報復の連鎖で悲劇が生まれる。
その負の連鎖を断ち切るために、彼は「自分の怒りに負けず、
許す魂」を獄中で注入されたのだと思う。
それこそが「負けざる魂」だということだろう。
それにしても27年間も幽閉されながら、
許せるってどんな精神状態なんだろうと思う。
ラグビーを知らなくても十分たのしめる。
ぜひご覧あれ。