『Dの複合』おそるべき松本清張

砂の器』で松本清張作品に出会って、『点と線』も読んだ。
この二冊もストーリーの巧妙さにうならされたが、
今回の『Dの複合』はさらに輪をかけて、複雑に人間模様が
絡み合わされていて、一気に読了してしまった。
すごいという言葉しか見当たりません。


ストーリーは、
売れない作家の伊瀬は、小さな出版社が出す旅行雑誌に連載を頼まれる。
そこで出会った浜中という編集者と、民話をめぐる取材旅行を敢行する
うちに、奇妙な殺人事件に出くわすというもの。


こんだけ話を複雑にしておいて、つじつま合わせでとってつけたような
話がまったくないのが、すごいです。
清張は原稿用紙に書いていた時代の作家だから、
途中で少しでもストーリーに破綻があると、簡単に切り張りすることは
できなかったはずで、相当苦労したはずだ。
もしかしたら、頭の中で完璧に整理されていて、一気に書き終えたのかも
しれない。もしそうだとしたら、彼は天才というしかない。
たぶん、松本清張という人は、完璧主義の人だったのだろう。


社会派ミステリーなんて、称号を与えられた人だけど、
彼の作品は、時代に翻弄された人たちが、そうするよりほかなく、犯罪に
手を染めるんだけど、この小説にもちらっとそういうところが出てくる。
いまの時代にはそういう作家がいるのでしょうか。
いたら読んでみたいものです。
あ、あと、電報を打ったり、三行広告を出して人探しするあたりは
時代を感じさせて、かなり新鮮でした。
いまの時代背景でテレビドラマ化するのは、かなり難しいでしょうね。
とにかく、清張のほかの作品ももっと読みたいと思わせる作品でした。