山際淳司という作家がいた。
代表作は「江夏の21球」といえば、
ピンとくる人は増えるのかもしれない。
優勝請負人と言われた江夏豊が自分でピンチを招き、
それを見事、刈り取るまでの1イニング21球のドラマに
迫ったものだ。
あれ以来、カープは日本一になっていないのだなあ。
この作品は納められている『スローカーブをもう一球』は、
私がライターになるきっかけになった一冊といってもいい。
この本は短編集を集めたものだが、作品に出てくる人間たちは
それまで私が本の中で出会った人たちと根本的に違っていた。
どう違うかというと、偉人伝にしろ、道徳の本にしろ、
本の中に出てくる人たちというのは、基本的にすべて
「人生に成功した人たち」の話だった。
ところが、この本の登場人物たちは、実在の人物で、
失敗した人たちが多く登場した。
読み進めていくうちに、「そろそろ成功するだろう」
「もう成功してもいいころだ」と思って読み進めていたのに、
最後に失敗したままで終わる。
なんとも物悲しい。
でも、その登場人物たちがなんとも人間臭いのがよかった。
自分の弱さに勝てなかったりする普通の人だった。
がんばってもがんばっても最後に報われなくても、
人生を投げ出したりしない。
そういう彼らの姿から、人生にはそういうこともある、
でも、人生は捨てたもんじゃない
ということも学んだ。
こういう派手ではないけど、味わい深い人物伝を書いてみたいよね。
いまの時代に受け入れられにくいかもしれないけど、
本当はそういものを読みたがっている人は
意外と多いんじゃないかなあ。