育児日記と涙

ある親子の話を思い出しました。


子供は思春期で反抗期。親もそんな息子の対応に困っていた。
息子は相当に荒れ、夜な夜な不良仲間と出かけることが多くなった。
ある日、母と子は大喧嘩をして、息子は飛び出していった。
その日の深夜、息子が夜の街を徘徊して帰宅したときのこと。
息子はリビングのテーブルに置いてあったノートの束を見つけた。
それは母親がつけていた育児日記だった。
妊娠が発覚したころから日記は始まっており、生まれてからも
しばらく続いていたようだった。
そこには、
どんなに妊娠でつらい思いをしたか、
どんなに出産のときにしんどい思いをしたか、
どんなに誕生のときにうれしかったか、
どんなに夜泣きがひどくて手を焼いたかが、書き連ねてあった。
ノートはところどころ涙に濡れ、しわくちゃになっていた。
息子は初めてそのノートをめくってむさぼり読んだ。
ノートの母親の涙の跡に、息子の大粒の涙が落ちた。
息子に読ませようと思ってノートを置いたのかどうかわからなかったが、
息子は母親との関係を修復したいとそのとき思ったという。


「それいい話だね」
「うちもいつか子どもができて、万一、グレたときのために
そういうのを書いて残しておこうよ」
と妻と話したのでした。