「そうはいかない」事情

私が働いている出版業界にはおかしな人が多い。
ある50代男性は、30代のときにつくった10万円の借金が
いまでは28万円ほどにふくれあがっており、
利息として毎月1万円だか、それぐらい払っているという。
最近、消費者金融が消費者に課しているグレーゾーン金利
集団訴訟に参加しようというのかと思ったら、そうではない。
「弁護士雇って、おれひとりでやるよ。
それで100万円ぐらい取れないかなと思ってるんだが」
と言ってワハハと笑っている。
その彼は、マンションの家賃15万円が、耐震偽造問題だか、
死のエレベーター問題だかで、5万円になっているのだという。
「じゃあ、そこで浮いた10万円を3か月分あてがえば、
すっきりキレイな体になるじゃないですか?」
というのだが、
「それがそうはいかねえんだよなあ」と言って、
またワハハと笑っている。
すごいと思う。もうわけわかんない。
毎月払うお金が悔しいと思っていないご様子なのです。
いつか100万円のご褒美があるかも、と思っている。
完璧にギャンブラーの考え方ですね。
こういう人たちに囲まれて、私は仕事をしているのです。
出版業界にはこういう人が多いんです。
ほかにもほぼホームレス状態のフリーライターなんかいくらでもいる。
アルコール依存症なんか普通である。
ただ、飲みにいって話がおもしろいのも、こういう人たちである。
グチを言わないのも、こういう人たちである。
同世代と飲んでも元気は出ないが、彼らと飲んでいると元気が出る。
なぜだろう。
絶対にマネできないから、自分は別のキャラになるようにしようと思う。
そのほうが、ライターとしての市場価値が出るだろうから。