「問題か不自由か」

久しぶりに私の愛読書となっている、
ロバート・フルガムの本から思い出した一説を2日間に渡って
2本紹介しよう。
「問題か不自由か」(『オッオー! 冷蔵庫のドアの内と外からの眺め』
の一説である。
彼は大学を卒業したてのころ、牧場で手伝いのアルバイトをしていた。
フルガムはそのときの賄い食がどうにも気に入らなかった。
ひからびたロールパンとフランクフルト、
あとは山盛りのキャベツの漬物しかなかった。
それをアルバイト代から天引きされた。
これが毎日続けれ、1週間経ったころ、彼はキレた。
ヴォルマンという年老いた同僚に、不満をぶちまけた。
1ページ半に渡って、経営者に対する罵詈雑言の限りをつくして
わめきつづけたと書いてある。
それを聞いたヴォルマンはこう言った。
「よく聞け、いま仮にクビの骨が折れたり、食べるものがなかったり、
家が焼けたりしたとする――これは問題だ。それ以外のことはすべて
不自由なんだ。人生とは不自由なものだ。人生はでこぼこのこぶ
だらけなんだ」
そして、「ほんとうの問題と不自由とを区別することを覚えることだ」
とフルガムに忠告したのである。
ヴォルマンはドイツ系ユダヤ人で、アウシュヴィッツの生き残りだった。
彼にとってこれらの食事はご馳走だったし、誰にも強制されることなく
生きられることがこの上ない幸せだった。
これまでの人生で、真実を知ってこれほど強烈な衝撃をうけたことは
めったにないと、フルガムは述懐する。
禅でいう、「足るを知る」につながる。
フルガムはこの「問題か不自由か」をヴォルマンテストと呼び、
自分が思い悩むときには、自分に問いかけるという。
腰まで水につかっていながら、のどが渇いて死にそうだと
騒いでしまいがちな今の私たちにこそ、ヴォルマンテストは
必要である気がしてならない。