スラムダンク、人気の秘密

連載終了から十数年経っても、「イイ!」との評判を聞くのが、
漫画「スラムダンク」である。
漫画好きには言わずもがなの名作であろうが、私はまだ読んだことが
なかったので、それほどいいものならと読んでみた。
まずびっくりするのが、脇役の豪華さ。
主人公・桜木花道も魅力的だが、他のメンバーがきっちりキャラクター
設定されていて、それぞれの個性が際立っている。
そして、バスケットボールというスポーツを正確に描写しており、
かなりリアルだし、戦術面も丁寧に描かれている。
スポーツの厳しさも描かれている。
たとえば、バスケットの未経験者である桜木が容易に上達しない点や、
ブランクのあった選手が壁にぶち当たる点、上には上がいることなどだ。
恋愛事情を絡ませるなどしているが、それはほんの添え物に過ぎず、
バスケットボールに熱中する高校生を生き生きと描いている。
この作品から感じるのは、既存のスポーツマンガの表現手法を
極力使わず、独自の作品をつくりあげようとしていることだ。
たとえば、脇役は主人公の引き立て役に過ぎないというこれまでの
常識を覆し、脇役のサイドストーリーを丹念に描いている。
脇役にもそれぞれの人生ストーリーがあり、同じ時間を過ごしている
大切な人間の一人であるという、作者の人間へのとらえ方が伺える。
そして、最終的に全国優勝するという安易な結末ではなく、
1回戦や2回戦にもドラマは存在するという見せ方も斬新である。
事実、スラムダンクで描かれる試合は全31巻で6,7試合しかない。
それだけ一つひとつの試合を、プレーを、人間を大切に
描いているのだ。
このマンガが連載された「少年ジャンプ」の編集方針は、
「友情、努力、勝利」というが、簡単に打ち解けてしまう安っぽい友情や、
単なる根性だけで押し通す努力は、スラムダンクにはない。
心の底では通じ合っているけれども表面的には友情を語る気になれない
ねじまがった友情や、理論に裏打ちされた効果的な特訓がある。
そういうのが当時の気風にあっていたし、なかなか深いものがあった。
そして感心したのが、部活としてのスポーツを描いたマンガの中で
唯一といっていいくらい珍しい勉強のシーンが描かれていたこと。
赤点を取ったための追試のための勉強であったが、
やはり高校生なのだから授業中に寝ているばかりでなく、
少しは勉強もせねばなるまい。


そんなわけで、とても面白く一気に読めてしまったマンガだった。
作者が描き始めたときには斬新だったであろう、さっき述べたような
マンガの手法を作品全体で貫いたのが人気の秘密なのかなと思った。