転石苔を生ぜず 

「情けは人のためならず」ということわざは、
「情けは人のためではなく、まわりまわって自分のために
なるのだから、人には情けをかけなさい」
というのが本来の意味であることは、
最近、よく知られるようになってきた。
これと同じような勘違いをされていることわざに、
転石苔を生ぜず」というものがある。
「転がる石は苔が生えないのだから、どんどん行動(転職)
しなさい」といった意味に捉えている人が多い。
本来は、「転がってばかりでは苔が生えない。腰をすえて
じっくり取り組むことが大切だ」という意味だ。
ここで問題なのは、苔が生えることがいいことかどうかだ。
お寺の茶坊主が境内を掃除せよと言われて、
岩の苔をすっかりきれいにしてしまい、褒められると思ったら
住職にしっかり怒られたという笑い話があった。
この話は世代間ギャップを意味している。
つまり、若者は苔をきたないものだと思い、
住職は苔を風情ある植物として考えていた。
苔が世代間によって受け取り方が違うように、
転職も世代間によって受け取り方が違っているところが、
この話のミソであり、おもしろいところだ。
若者はだんだんアメリカ的な考えになっていき、
転職を繰り返してよりよい環境を得ようとする。
だが、苔のようにじっと一点に留まり、地道に、着実に
生きることはそもそも従来の日本人の生き方だった。
日本には長く地道な努力を重んじる精神文化があるんですね。