震災の教訓

NHKスペシャルでし3・11の震災時に人々がどのように
動いたかを検証した内容が放送された。
宮城県名取市で行なわれたアンケート調査から、
驚くべきことが次々とわかった。
わかったのは、次のようなことだった。


地震発生から津波到着までの70分の間、
人々の間には緊張感はあまり見られなかった。


根拠のない噂によってみなが同じ避難場所を目指し、
渋滞が発生して多くが命を落とした。


お年寄りなど他者を助けるために現場に戻った人が何人もいた。


これらの行動はそれぞれ、正常性バイアス、同調バイアス、
愛他精神というのだという。
バイアスとは、偏りや歪みを意味する。
人には「特別なことは起きていない。大丈夫だ」と信じようとする
正常性バイアス」がかかるという。
そして、渋滞の中では車を乗り捨てて逃げようというより、
他者と同じ行動を取ることで安心しようとする
「同調バイアス」がかかってしまった。
素人考えだけど、これらのバイアスは人が太古から生き延びるために
獲得してきた一種の能力みたいなものなので、無くせないものだと思う。
この意識をなくすためには、日ごろの防災教育を徹底して行ない、
意識の底に「非常時は常識を捨てる」という考えを
刷り込んでいくしかない。
この番組中で最も物悲しかったのは、ある中年男性の話だった。
彼は津波の到来を予想して身よりのない老女を夫婦で説得した。
だが、「もう死んでもいい」という老女を説得するのに
20分を要してしまった。
そして、やっと説得し、老女を妻に任せ、自分は他の避難者を
誘導する役目を担いながら避難した。
だが、老女と妻は避難所の手前で津波にあって命を落とした。
私は思う。
「もう死んでもいい」という老人はたくさんいて、
それでもそうした老人を救いたい人もたくさんいる。
もう死んでもいいという人を説得するには何か方便を考えなければ、
こうした悲劇は繰り返される。
たとえば、「もう死んでもいい」という老人には、こういう。
「あなたを見捨てたら、私は一生後悔する。あなたが動けなければ、
私も死ぬ。私を助けるために一緒に避難してほしい」
老人の愛他精神を利用するのだ。
「あなたを助けるのは自分のため、あなたのためではない」
と嘘でもなんでもいいからいう。
頑なな老人を動かすにはこれしかないのではないかと思うのだ。
もちろん、そう簡単にいくはずのないことは承知でいうのだが。
教訓を学んで、ぜひ非常時に役立てたい。