車掌の意地

都市生活の現実を垣間見た。
地方だと乗り遅れた人がいると、電車はいったん走り出していても
止まってくれたりする。
でもここは東京。


ある日、午後4時半ごろ渋谷に向かう電車に乗っていた。
ひとつ、ふたつと駅を過ぎた後、
3つの駅のドアが開いた。
そのとき、20代後半と思しき女性がホームに走りこんできた。
しかし、あえなく彼女の目前で無情にもドアはぷしゅと音をたてて
閉まろうとした。
その瞬間、ハエを箸でつかむ宮本武蔵的素早さで、
女性は閉まろうとするドアの間に持っていた紙袋ごと
腕を突っ込んだ。
ががーんと音がした次の瞬間、ドアは腕を挟み、
一瞬の空白のあと、ドアが開いた。
そのとき、女性は「やった、間に合った」と思ったのだろう、
車内になだれこもうとした。
しかし、ドアが開くやいなや、瞬く間もなく閉まろうとした!
ずがががーん。


ふぎゃーーー!!!


3分の1だけ車内に入っていた彼女の体は、
ドアの閉めるパワーに押しつぶされた。
もんどりうってホームに倒れこむ女性。
それを覗き込む車内の乗客。
一時、車内は騒然となった。
「どうしたんだ、どうしたんだ」「なんかすごい音がしたぞ」
という面々のほかに、笑いをこらえきれないおじさん一人。
女性の「やった、間に合った」というときのうれしそうな顔
といったらなかった。
車掌のツンデレ具合にさぞかし面食らったことと思う。
私は車掌の「駆け込み乗車は絶対に許さない」という
固い決意の表れを見て取った。
あな、おそろしや。