『奇跡のリンゴ』読了

先日も紹介した『奇跡のリンゴ』という本、読み終えました。
青森県のりんご農家である木村秋則さんという方が、
無農薬リンゴの栽培に挑戦する、艱難辛苦の物語です。
もう読み進めていくうちに涙なくしてはページをめくれません。
ひとつのことを極めるのに、そうまでしなくてはいけないのか
と思わざるをえません。
貧乏と、周囲の白眼視と、失敗の屈辱に耐え、
彼はついに無農薬でリンゴをつくることに成功します。


そのヒントを摑んだのは、クビを括ろうと思って分け入った山で
見たどんぐりの木でした。
どうしてどんぐりの木は農薬を使ってもいないのに、
病気にも害虫にも負けずにどんぐりという果実をつけるのか。
そこで彼は自分のリンゴ畑とは土に違いがあることを発見します。
そして、自然の生態系を最大限に生かしたリンゴ栽培がはじまるのです。
最終的に何年も咲いていなかったリンゴの木に花が咲き、
小さいながらも実をつけるようになります。
最初は一本の木に数個しかリンゴがならなかったらしいのですが、
今では通常栽培の8割まで収穫量を確保することができたといいます。
彼の挑戦の日々は想像を絶するものがありますが、
彼の妻、娘たち、周囲の人々が、無謀とも思える挑戦を
あたたかく見守り、支えていたという点もいい話でした。


彼は「リンゴを育てるのではない。自分は手助けをするだけ」という
謙虚な姿勢で自然と対峙しているようです。
人間にとって害虫でも、自然界ではそれぞれの生き残り戦略に沿って
必死で生きているに過ぎないことに彼は気づきます。
りんごの木が本来持っている生命力を発揮させるために、
畑の生態系を豊かにさせ、根を太く張らせることにしたわけです。
これはすべての農作物栽培に非常に示唆となることだと思います。
森林インストラクターの勉強の中で、虫や草や花の生態系についても
学びますが、こうしたことが農業にも生かせるかもしれません。
どんぐりの木には落葉広葉樹がありますが、落ちた葉は堆肥となって
どんぐりの木の栄養分になります。
しかし、畑は絶えず農作物を収穫するので、土地がやせていきます。
そこで普通は堆肥を入れたりするわけですが、このことが栄養過多になり、
強くて太い根を張らなくてもすむ木をつくった。
そのため、病気や害虫に弱くなり、農薬が必要になったのだと
この本では解説しています。


植物には本来、自己防衛する能力が備わっているといいます。
たとえば、キャベツは害虫に葉を食べられると、化学物質を放出し、
天敵を呼び寄せることができるといいます。
農薬はそういう能力を奪ってしまうのかもしれません。
これは人間が無菌状態で育つと菌に対して耐性のない体になっていく
のとよく似ています。


現在の経済的論理の中では、農薬は農業に欠かせないものでしょう。
しかし、食の安全が叫ばれている昨今、無農薬栽培の必要性は
これからどんどん高まると思います。
木村さんの挑戦は単なるリンゴ栽培にとどまるものではないかも
しれませんね。
今年、一番よい本といってもいいかもしれません。
みなさんにもぜひおすすめします。