なつかしく思い出される歌はそう多くない。
でも、その曲を聴くと当時のことが思い出されることがある。
私にとってZARDの曲はまさにそれであった。
ヴォーカルの坂井泉水さんが亡くなったとのニュースが流れた。
「負けないで」をはじめとして印象的な楽曲を数多く発表した。
OLの教祖なんて言われたりもした。
ZARDの曲の特徴はというと、「眠れない夜を抱いて」とか
「君がいない」「揺れる想い」など、どれもサビの部分の歌詞が
そのまま曲のタイトルになっており、特定のシチュエーションを
想起させる内容になっているということだ。
普通はたとえば、テーマを失恋にすると、「会いたいのに会えない」とか
「好きだったけどあきらめる」といった心理描写を適当に
連ねていけば、歌詞はできる。
こういう状況が当てはまる人が多い。
つまり、たくさんの人にCDを買ってもらうには、ターゲットを大きくし、
誰にでも当てはまるシチュエーションにする必要があるわけだ。
ところが、「最初に好きになったのはあなたのほうだったのに、
あとから私を好きにさせておいて、別れを告げたのはあなた…」
という状況にすることで、ターゲットは絞られるが、その分、
特定の人に深い印象を与えることができる。
状況を具体的にすればするほど、多くの人の状況に当てはまらなくなるが、
だからこそ逆に大ヒットする可能性がある。
ZARDの曲はまさに後者のほうだった。
「シチュエーションソング」であった。
考えてみると、「神田川」にしろ、「なごり雪」にしろ、これらは特定の
状況を唄った「シチュエーションソング」であった。
日本人は情景を思い浮かべて曲を聴く人が多いのである。
演歌はその点で秀でている。
「肴はあぶったイカでいい」「あなたと越えたい天城越え」
など、情景が思い浮かぶものを好むものである。
(この点で私はいまの歌唄いの連中に不満がある)
ZARDが受けるあたり、やはりみんな日本人なのである。
ZARDのような路線を引き継ぐ歌手が出てきてほしいものである。