「生まれたて」

ドキッとしたというか、
物悲しいというか、
なんともいえない気持ちになった。
先日、高級なフレンチのお店に連れていってもらったときのこと。
メインの肉料理の説明を店の人がしてくれた。
羊と豚と馬と、どれがいいか、説明を聞いてチョイスしろというのだ。
その羊の肉の説明。
「生まれたての子羊の肉をローストしてうんぬん、
子羊の肉はとてもやわらかくてうんぬん」
私は人の話はけっこうよく記憶できるほうだが、
このお店の人の「生まれたての子羊」「とてもやわらかくて」という
フレーズに衝撃を受けて、あとは頭に入らなかった。
頭の中で「生まれたて」がリフレインした。
なんぼなんでも、「生まれたて」というのはないんじゃないかなあ。
私の頭の中では、母羊の腹から這い出てやっと歩き出した子羊が
よちよちと歩いていた。
店の人は「肉がやわらかい」ことを説明するために
「生まれたて」をチョイスしたのだと思う。
彼の仕事熱心さには敬服するが、私には逆効果だった。
ちょっと生々しすぎた。
ちょっとエグすぎた。
ちょっと悲しすぎた。
ああ、なんという人間の罪深き事よ。
この店で出される羊肉にされた子羊が、いくらかは生きて、
なんというか、成仏してくれていたら私の物悲しさはいくらか軽減される。
結局、私はこの子羊の肉をチョイスしなかったのはいうまでもない。