おすすめの散歩道「多摩のよこやま」

多摩のよこやまという、散歩道がある。
多摩市が観光用に整備したもので、総距離10キロにも及ぶ。
このよこやまの道のネーミングは、
7世紀後半から8世紀後半ころにかけて編まれた万葉集の歌からとったもの。
これがそれだ。


「赤駒を山野に放し捕りかにて 多摩の横山 徒歩ゆか遣らむ」
豊島郡の上丁椋椅部荒虫が妻 宇遅部黒女
―赤駒を山野に放牧して捕らえられず、
夫に多摩の横山を歩かせてしまうのだろうか―


古代、大和王権の成立以来、大陸からの脅威は常にあった。
そのため、西のほうの警備に武蔵国からも防人が派遣された。
当時、西国に行った防人はほとんど帰ることがなかったから、
旅立つときが今生の別れでもあった。
馬を放牧していたら、捕まえることができず、夫に多摩の横山を
歩かせてしまうのか、夫が不憫でならない、といっているわけである。
武蔵国府(いまの府中)から見ると、現在の多摩、稲城、八王子
といった各市にまたがる山の尾根筋は山がよこたわっているように見えた。
この尾根筋には東西南北からの往来の頻繁な古道が多くあった。
ここを通って防人たちは西国に向かったわけだ。
高尾山や昭和記念公園もいいが、こうした渋い里山の散歩道も、
都会人たちにおすすめしたい。