「杉原千畝 スギハラチウネ」

ビザを発給することで6000人の命を救ったとされる
外交官・杉原千畝唐沢寿明が演じた。
心情的には、杉原のもっと苦悩に満ちた姿であり、
現場を去る列車の中でもビザを書いていたという、
必死な姿を描いて、カタルシスを得たかったという気がする。
でも、単なる人道主義者という側面だけでなく、
諜報員的な働きをする僻地の外交官として、
冷徹に職務を遂行する姿がきちんと描かれていた。
杉原は日本に帰ってきてから必ずしも正当には評価されなかった。
当時の外務省内部からも評価されず、
今もって彼のことを評価しない外交官もいるだろう。
それは劇中の人物が言った、
「あなたは外交官としては最低だが、よい友人だった」
に集約されている。
現在の価値観からすれば、ユダヤ人の命を救った彼は、
英雄としてもてはやされてもいいが、当時からすれば、
異端分子のように見られていたとしても不思議ではない。
それでも彼の人生から何か学ぶことがあるとすれば、
それは自分で正しいと思った判断を、自分の立場を顧みることなく
まっとうしたことだろう。
善悪は時代が変われば簡単に転ぶ。
けれども、その人が自分の信念に従って貫いた行動なら、
その行動には常に一定の正当性がある。
自分の信念に従い、それを全うするということが、
私のような凡人にはなかなかできない。
だから彼の生き方に感銘を受けるのだろう。
彼が救った人の中には、アメリカの兵器開発に利用された人もいた。
あとから見れば、杉原のやったことはすべて善とは言い切れない。
だが、自分の信念に従い、それを全うすることは、彼は完全にできた。
彼の信念とは劇中に杉原が吐く
「人の世話にならぬよう、人の世話をするよう、そしてむくいを求めぬよう」
であった。
「上が言うからやる」と思考停止することなく、
杉原のように何がベストなのかを自分の頭で考え抜くことができれば、
先の戦争ももっと違った結末があったのではないか。
そして、それはこれからの私たちにも言えることなのだ。