見終わったときは普通の映画という印象だった。
その中で劇中の「書」が目に付いた。
後半、「天上大風」と書かれた「書」が出てくるのだ。
「てんじょうおおかぜ」あるいは「てんじょうたいふう」とも読む。
調べてみると、江戸時代のお坊さんの良寛が残した言葉なのだという。
良寛自身がこの言葉を解説しているわけではないが、
「空は澄んでいるように見えても、その上では大風が吹いている」
という解釈が一般的であるようだ。
劇中、主人公の堀越二郎は、仕事では出世していくが、
妻の病気はどんどん悪化していく。
仕事の空は澄み切っているが、天上では大風が吹いているわけだ。
仕事に打ち込みながらも、一方では妻を思いやる気持ちを持っている。
宮崎氏がこの映画をつくることを決意し、絵コンテが一通り
出来上がったときに震災が起きたため、
「こんなときに何をつくるべきか」について苦悩したという。
その答えがこの映画だった。
愛する人をなくしても、仕事をして生きていかなければならない。
宮崎氏は映画の最後に、イタリアの飛行機技師カプローニに、
「君はまだ生きねばならない」と語らせる。
天上で大風が吹いていても、生きていけといっているわけだ。
実は最初の構想では、主人公の二郎は最後に死ぬことになっていた
らしいのだが、生き続けていくというふうに変更されたらしい。
それは震災があったからではなかったか。
愛する人をなくすという大きな困難でなくても、
いろんな困難が人生にはつきまとう。
「それでも、生きていけ」
そういうことなのではないかと、私は受け取った。
このことは、ジブリ映画の根幹を成す、「この世は生きるに値する」
という人生への肯定とも一致する。
自身の集大成としてこのテーマに最後も立ち返ったということだ。
「それでも、生きていかなければ」というのが、
映画のキャッチコピーになっている「生きねば」なのだ。
時間をあけてもう2,3回観てみたい映画である。