『教誨師』

縁あって『教誨師』という本を読んだ。
教誨師とは、拘置所や刑務所で価値観を是正し、
精神的な平穏、魂の救済を目的として、収容者の矯正を
行う人生の先生のような存在で、宗教者が担う。
この本の教誨師は、仏教のお坊さんだ。
死刑囚を収容する拘置所教誨師だ。
印象に残ったいくつかの中から一説を紹介する。
その教誨師の言葉が突きつけられ、痛かった。
「何かあるとすぐ死刑、死刑というけどね、それを実際に
やらされている者のことを、ちっとは考えてほしいよ」
私は死刑については否定派だが、やらされている者のことを
考えているとは言いがたい。
死刑を行う刑務官も見守る教誨師も誰もが苦しい。
凶悪犯を見るとすぐに「そんなやつは死刑にしてしまえ」
という人は一度、この本を読んでみてほしい。
この本の中で興味深かったのは、語り部となる渡邉という
教誨師がアル中になって入院してからの話だ。
死刑囚に「わしアル中でね」というと、とたんに彼らが
心を開いてくれるようになったというのだ。
入院した病院にはカウンセラーがいたが、高みからアドバイスする
ような態度で、患者たちには受け入れられていない。
そうでなく、何でも聞いてくれる掃除のおばちゃんのほうが
いろいろな話を聞きだして、信頼されている。
死刑囚の収容施設のおっちゃんになったことで、
死刑囚の心を開かすことができ、
それが結果的に寄り添うことにつながった。
なかなか示唆に富んだ内容で、思わず引き込まれる一冊だった。