八つ当たりはダメ

「あの人が降りますって言ってるでしょう?
降りられなかったらどうするの?」
電車内から鋭い年配女性の声がする。
居合わせた人が、混雑のためなかなか車外に出られなかったのを
かわいそうに思ったのか、誰かを罵っている。
年配女性の怒りは、事が無事終わっても収まらない。
「降りられなかったらかわいそうでしょう。
あなた、なんで避けてあげないの? あなたにやさしさはないの?」
さらに、怒りの矛先は他の乗客にも向けられる。
「みんな自分のことばっかりで、降りる人に協力しない人ばっかり。
思いやりとか全然ないじゃない。みんな自分中心ばっかりで、
そんなだと自分が結局苦しむんだ。そんなの当たり前でしょ!!」
どうやら彼女の怒りは社会に向けられたものだったようだ。
その怒りのはけ口となった誰かにみんな同情した。
女性の言っていることは正しい。
何の疑いもなく、どこにも非の打ちどころがない。
けど、一言、二言注意すればよかったのに、
立て続けにまくしたてるのはよくなかった。
怒られた人は、自分中心な人が多い社会の象徴かもしれないが、
その人が社会全体の責任を負っているわけではないから、
「みんな自己中心的な人ばっかりだ」というのは、
言ってもしょうがないことである。
自分の中にため込んだ鬱憤がもともとあって、
どこかにそのはけ口を求め、ちょうどいい、はけ口を求めやすい対象に
怒りをまとめてぶつけるというのは、あまりいいやり方ではない。
今回の中年女性の件は、八つ当たりに近いものだと感じた。
言われた人は、ちょっと反省し、あとは不運だったと思って
忘れるしかないね。