「楽寿園」訪問

取材で静岡県三島市を訪れた。
三島市は新横浜から新幹線こだまで45分ぐらい。
ほとんど首都圏といってもいいほどの近さだ。
JR三島駅の目の前にあるのが、楽寿園という公園だ。
かつてある皇族が別邸としていた敷地を
公立公園としたもので、中は動物や電動のこどもの乗り物も
あるが、私が見たかったのは小浜池と楽寿館。
小浜池は夏には富士山の雪解けを集めて水位が増す。
もっとも多いときには180センチぐらいになるが、
秋口からだんだん減っていき、翌年の春には30センチぐらいに
なってしまうという。
池はどこからも水は注ぎ込んでおらず、湧水だけである。
この池とその周辺の庭園が見ものなのだが、
その池を見渡すような位置にあるのが楽寿館だ。
別邸とした皇族の居住した建物だ。
当日は、園のスタッフによる解説もしてもらった。
建物内の装飾はどれも意味があるもので、趣のあるものだった。
中でも部屋から見る小浜池は格別だった。
この建物の主は、ここから池の水面に映った月を愛でたという。
かつては花見と同じくらいの盛大なイベントだった月見は、
現代ではあまり表立っては催されない。
月を直接見るのは忌み嫌われることだったようで、
水面に映ったものを見るのが習わしだったようだ。
銀閣寺もそうで、そのためのつくりであるという。
小浜池は最近になって湧水量が減っているという。
井の頭公園も湧水が減っているというし、
環境が昔とは変わっているのだろうと思う。
まだ開発の余地のある多摩地区では、
宅地造成は小規模ながら進んでいる。
木々のあるところに豊饒な土壌ができ、水を蓄えていく。
木々がなくなったら、湧水はなくなり、川は枯れる。
楽寿園にしても井の頭公園にしても、水をたたえた景観を人々が
「ああ、いいものだなあ」と思わない限り、それを保全しようという
考えは出てこない。
月見というイベントは、現代にとってはそんな感性を
育てるという位置づけとして必要なんじゃないか。
そんなことを思った三島観光だった。