頭脳プレーに感動

甲子園で珍しいプレーが起きた。
第2試合で熊本の済々黌対鳴門でのこと。
2−1でリードする済々黌は7回裏、1アウト1、3塁と攻める。
このとき打者がショートへライナーを打った。
1塁走者が飛び出していたので、ショートは取ったボールを
1塁へ送ってダブルプレーを完成させていた。
しかし、このとき3塁走者も飛び出しており、
そのままホームを踏んだため、1点が入り、3−1とリードを広げた。
普通に考えれば3つ目のアウトを1塁で取ってチェンジのはずだが、
1塁で1塁走者がアウトになる前に3塁ランナーはホームインすれば
得点が認められることをルールブックは定めている。
守備側がこの1点を防ぐには、「第3アウトの置き換え」といって、
1塁でアウトを取ったあとであっても、フェアグラウンドを離れる前に
3塁にボールを送り、「3つ目のアウトは3塁にします」と
アピールすることが求められる。
しかし、フェアグラウンドから離れると、アピール権を放棄したと
みなされ、その時点で1点が記録される。
5年に1度くらいの頻度で偶然起こるプレーなのだが、
驚いたのは、済々黌はこのルールを知っていて狙ってやったというのだ。
狙ってやるのはかなりリスクが高い。
私もこのルールを知っていたが、知っていても実践でできるかどうかは別。
何しろ、1アウトの状態では、「ライナーバック」が野球の基本だからだ。
失敗すれば、ただのダブルプレーにしかならず、
大量得点を得たかもしれない機会を逸することにもなる。
「どうしてもあと1点がほしい」というときにだけやることになる。
そういう試合判断ができるのはすごいことだ。
「こういうプレーは練習している」と選手のコメント。
私も元高校球児として本当に驚いたというしかない。
3塁走者以外は大げさに飛び出す必要がある。
すると、守備側はゆっくりボールを送る。
その間に3塁走者はそろっとホームインするわけだ。
たとえば、2アウトランナー1,2塁でレフト前ヒットが打たれたとき、
1塁走者はわざと2塁を大きく飛び出してアウトになることがある。
レフトや中継に入ったサードが目の前を走るランナーをアウトにしたくなるからだ。
1塁ランナーはアウトになっても、2塁ランナーはホームに生還できる。
これも、アウトを増やしても「突き放す貴重な1点」を取るための策だ。
強いチームはこういうことを常に考えている。
済々黌熊本県内有数の進学校らしいから、短い練習時間でどうやったら
勝てるか頭をひねったんだろうね。
そして、普段からそういうのを研究して練習している選手に感動した。
こういうのを見せられると、スポーツって頭を使えば勝てるんだ
ということに改めて気付かされる。


追記
どうしてこんなルールがあるのかというと、
不思議でもなんでもありません。
今回のアピールの必要性は、
アピールしないとタッチアップの離塁が早くても
1点が入るのと同じ考え方。
アウトになっていない「生きた」走者が、
3つめのアウトの前に生還すれば得点となる点では同じです。
理にかなった整合性のあるルールだし、よくできたルールです。
アピールしないとだめっていうのが、
民主主義の国アメリカ生まれのスポーツらしい。
アピールしなくても審判がオフサイドのジャッジをしてくれる
サッカーやラグビーなどのイギリス生まれのスポーツとは違う。
いやあ、スポーツって本当におもしろい。